望月旋律

□君に降る幾多の幸せ
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 記録的猛暑と言われた夏も無事乗り切り、食欲の秋がやってきた。

 焼き芋。スイートポテト。マロンパフェにモンブラン。

 他にも秋季限定とうたわれる甘味が目白押しで、自他共に認める糖分王銀八も、大満足な日々を過ごしている。

 秋の三大イベントである体育祭と文化祭も終わり、その二つ共に美味しい思いをして過ごした銀八は、残すところあと一つのイベントに心躍らせていた。



 元体育の日。


 その日こそが、残すところ後一つの一大イベント、銀八の誕生日だ。

 大学を卒業してすぐこの高校に赴任しすでに数年がたっているが、やる気のないスタイルを貫きながらも、生徒に近い歳と気さくな性格からか、生徒からの人望は意外と高く。誕生日ともなると、毎年、大好物の甘味類を生徒達がプレゼントしてくれる、大変ありがたい日でもある。

 しかし、今年は例年よりも、銀八のその日に対する意気込みが違う。

 今年は、口説いて口説いて最後はストーカーまがいなことまでして、やっとのことで落とした最愛の恋人がいるのだ。

 残念な事に、確実に祝日だった昔と違って、祝日となることが圧倒的に少ない。今年も土日にさえ掠らず、それどころか、週の半ばなどという、どう考えても真面目な恋人が泊まりに来てくれる事のない曜日になっていて、銀八はカレンダーを何度も怨みの篭った眼差しで睨み付けたものだ。

 せめて週末にかかっていれば、誕生日である事を免罪符に拝み倒してでも部屋に連れ込み、恋人の土方はまだ学生だからプレゼントなんていらないよって告げて、その代わりにあんな事やそんな事が要求出来たのに、と出来もしない妄想に枕を濡らす日々を過ごした。

 それでも、ただ一言。

 土方が自分に向けてお祝いの言葉をくれるだけで、今まで全く気にしていなかった誕生日が、銀八にとって何よりも幸せな一日になるであろう予感があった。
 
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