しょうせつ
□スクラップ
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ラビはアレンを窺い見たが、表情は読み取れない…。
アレンの反応を待てず、ラビが何かを言おうとしたときだった。
「昔、製鉄所の近くに住んでたことがあるんです」
「へっ?」
アレンの唐突な話にラビはついていけない。
なんでそんな話に?
そう思うラビを無視してアレンは続ける。
「マナが一人で仕事に出かけなければならないとき、製鉄所で働いている方とよく話をしたことを今思い出しました。お金がなかったので好いところに住むなんてことはできなくて、空気はあまりきれいではなかったんですが、その人たちと話をするのは好きでした」
きっと自分の言ったことと関係があるのだろう、ラビはそう考え、黙ってアレンの話に耳を傾ける。
「製鉄所にはたくさんの鉄屑が集められて山のようになって置かれていて、僕は何のためにそれがあるのか不思議に思って聞いてみたんです。そしたら、一人がこう言ったんです『ここは製鉄所だぞ。鉄を作るのに使うに決まってるじゃないか』って……」
アレンはラビに笑いかけ、同意を求めるような話し方をし始めた。
「でも積まれているのは子どもから見ても本当に混じりものだらけで質の悪そうな鉄なんですよ。使用された後にしか思えない鉄なんです。普通おかしいと思うじゃないですか」
「あぁ」
ラビは相槌を打ち、聴き入る。
「そしたらその人は『いい鉄を作るのにはいろんな鉄を混ぜるのがいいんだ』って言うんです。純度の高い鉄だけでは質の高い、強い鉄はできないんだって…たくさんのいろんな成分を含まないとダメなんだって…。―――ていうことを思い出したんです」
満足したような表情でラビを見るアレン。
アレンの眼に相手の赤い髪が映る。
製鉄所でみたあの炎のようだとアレンは思った。
全てを含み、得て、それを自分のものとし作り上げることのできる赤。
アレンはその赤に手を触れる。
ラビはその手に自らの手を添うように合わせ、微笑んだ。
「ありがと」
ラビが言えたのはこの一言。
アレンはどうしてこんなにも容易く俺を救うのだろう…。
自分受け入れてもらえたようなこの安心感…。
その感謝を伝えるに足りる言葉など俺は知らない。
手を頬へと移し、強く握りしめる。
あぁ、優しい君のために強く笑おう。
そして、強い君のために強く在ろう。
感謝を君に捧ぐ―――。