しょうせつ
□Convoy
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「もっと違う答えが返ってくるかと思ったさ。例えば…『クロス元帥』とか?」
「僕のことわかってないですね。それはないですよ」
「質問わかってる?『出会わなければよかったのにって思う人がいるなら誰さ?』って訊いたんだぜ?」
「えぇ、もちろんわかってますよ。だから『神田』と答えたんです」
「………」
理由がわからなかった。
全く違うようでいてユウとアレンはすごく似ている。
物事に対しての感じ方は同じであるが、示す態度は全く異なる二人、互いに同じ部分と異なる部分とに惹かれあって、いつのまにか一緒にいるようになっていた。
そんなアレンが『出会いたくなかった人物』として名を挙げたのが『神田ユウ』である。
「どうしてさ?」
質問は続いた。
「マナや師匠は…僕に道を示してくれた人です。僕が僕として歩める道を―― 歩むべき道を手をひいてくれたんです。…まぁ、ちょっとその手段はどうよ?って思わずにはいられない、トラウマになるやり方だった酷い人もいるんですけどね…ふふふ」
「アレーン、目が笑ってないさぁ」
「まぁ、それは置いといて」
先ほどまでの声は笑っているのに目が笑っていない表情から、アレンの表情は真面目なものへと変わる。
それと同時に両手をソファにつき、天井を仰ぎ見た。
「まぁ、だから師匠と出会わなければよかったのに、なんて思うはずはないんです。それに対して神田は真逆ですよ。僕は今までアクマのために、みんなを守るために破壊するという道を歩んできたのに、これからもその道を大切に歩んでいきたいと思っているのに…彼は僕の特別になりかねないんです」
「それは、ダメなんさ?」
「ダメですよ」
ラビは切なそうにアレンの顔を窺い見る。
アレンの顔は苦笑いをしているようだった。
「僕の大切なモノの中のウェイトを彼一人が大きく占めるなんて困ります。大切なモノはたくさんあって、その全てのために僕は生きたいんです。彼と出会わなければ、乱されることなく、この道を迷わずに、バランスを保ったまま信じて進むことができたのに…」
アレンの苦い顔はいつの間にか優しさと穏やかさに満たされていた。
なんて顔でそんなことを言うのだろう。こっちが切なくなるさ…。
そんな思いを抱き、それを隠しきれないラビはわざと話の骨を折るような明るさと満面の笑顔でアレンにある提案をする。
「ユウのこと出会わなければよかったなんて思うなら、別れて俺と付き合ってみるさ?」
「あはは。御免こうむります」
「えぇー!考える余地なし!?」
アレンも笑顔で間髪入れずに一刀両断で提案を返す。そしてさらに言葉を続けた。
「いいんですか?そんなことしてうっかり僕がラビのこと好きになっちゃったら、今度はラビのことを『出会わなければよかったのに』って思ってしまうかもしれませんよ?」
「うっ…それは嫌さ…」
「なら、このまま仲のいい仲間や友達でいて下さい」
諭すように話しかけるアレンはため息交じりに結論付ける。
「えぇ〜」
「えぇ〜じゃありません」
納得のいかないラビは子どものように語尾を伸ばす。そして後に最後となる質問をする。
「じゃあさ、じゃあさ、ユウと別れようとは思わないんさ?」
「…考えましたよ。それと別れたら神田のことどんなふうに自分は考えるようになるのかについても…。」
「そしたら?」
「…きっと別れたら、『あの人と出会えてよかった』って思うようになるんだろうと思いました」
「ひねくれてんなー」
屈折したその思いと変化の仕方にラビは呆れた。
しかし、そう話すアレンの眼差しはまっすぐと前を見て揺るがないものであった。そして屈折した表れ方をするその思いの中にも眼差しと同じくらいの強さを感じる。
どちらにしても、そう思ってしまうほどの感情がアレンの中に在るのだ。