短編

□ふたり
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花井の顔は窓から入る夕日に照らされ、朱色に染まっている。

その表情を見ていたら「どくん」とひとつ、胸が鳴った。

なんともいえない感覚。

どうしたんだろう…花井の顔を見ただけで、俺…。

「あ、」

よくわからない。
よくわからないままに声を上げてしまった。

気づいた時には、唇に触れた温かい感覚と目をつぶった花井の寝顔がぼんやりと残っていた。

俺、花井に…

花井の寝顔にかかる俺の影がゆっくり揺らめく。

「…やべっ」

思わず発した俺の声が教室に響く。

間の悪いことに、目の前の頭がむくっと動いて俺と目を合わせた。

硬直する俺と目をぱちくりしている花井。

最悪だ…。

そう思った瞬間、俺は教室のドアに向かって駆け出していた。

もしかしたら花井は、キスしたことなんて気づいていないかもしれない。
でも、俺は反射的に逃げてしまった。

後ろからは「おい!」と俺を呼ぶ声と、がたん。という椅子を倒したような音が聞こえた。

その声も、音も、全部聞こえなかったように全速力でドアをくぐった。

俺は今どんな顔をしてるんだろう…。
考えるだけで、頭の奥が沸騰しそうになった。



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