短編

□ふたり
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シンと静まり返った教室で、机に頬杖を突きなから考えていた。

正面の花井は相変わらず机に突っ伏しながら寝ている。


俺はいつから花井を意識するようになったのだろう。

きっかけは特になかったと思う。
気がついたら目で追っていたとしか言えない。

だから知っている。

花井がどれだけ努力しているか。
どれだけ自分に厳しいか。
キャプテンがどれだけ大変か。
全部、俺は知っている。

ずっと見てきたから。

花井は優しい。
でも、その優しさは俺だけに向けられたものじゃない。
みんなに対して平等に優しい。

だから、俺にとっては残酷だ。

「はあ…」

自問自答していた俺の口からは、深いため息が出る。


「あれ…俺…」

そんなことを考えていてら、目の前の頭がむくっと動いた。

その頭をじーっと見ていたら、やっと顔を上げた花井と目が合う。

「やっべー…俺、寝てた?」
「そりゃもうぐっすりと」
「んだよ、起こしてくれてよかったのに…」

そう言いながら自分の頭をがりがり掻く花井。

「いや、それがな…爆睡してるから声かけたら悪いかと思って」

「うわー、それこそ早く起こせよ」

まるで田島みたいだったぞ。

そう笑ってやれば、つられて花井も苦笑した。

「じゃ、今日はもうこんな時間だし…続きはまた明日な」

「悪いな、俺が寝ちまってたから…」
「べつにいいって」

そう、むしろそれでよかった。

唯一、お前と一緒にいられる時間。

「じゃ、また明日」
「じゃーな」

明日も一緒にいられる時間があるかと思ったら自然と心が躍った。



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