短編
□5pの距離
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「いいじゃーん。迅やろーよー」
座っていた椅子を子供みたいにガタガタ揺らすと、迅が焦って寄ってきた。
「慎吾さんはなんでいつもいきなりなんですか?」
「…だって、やりたくなったんだもん」
はぐらかすように笑顔で答えると、迅は困ったように俺を見つめた。
「だいたい、ポッキーゲームがやりたいなら、合コンでもなんでもやって、女の子に付き合ってもらえばいいじゃないですか」
「俺は迅としたいの」
早口で話す迅に、今度は真剣に答えると、眉をハの字にして恥ずかしそうに俺から目をそらした。
「迅」
「ねぇ、じーん」
「…真柴くーん」
顔を赤くしたまま俺に背を向けた迅に、何度も呼びかけてみる。
「迅しようよー」
「…」
「じゃー…俺、動かねぇよ」
「じゃー…」と言った俺の言葉に、目の前の後輩はピクッと肩を揺らした。
「迅がポッキーゲームしてくれんなら黙ってポッキーくわえてるだけにすっから。お願い!」
そう言って、迅の背中に拝んでみる。
しばらくすると「…どうしてもなんですか?」と、頭上に声が降ってきた。
パッと顔を上げると、そこには真っ赤になった迅の顔。
今すぐにでも抱きしめたい。
けど、そんな気持ちを必死に我慢して、うんうんと首を縦に振ってみせた。
「そこまで言うなら…」
と、言いかけた迅の前で、さっそくポッキーの端をくわえる俺。
「もう、慎吾さんてば、調子良すぎですよ…」
なんだかぶつぶつ言ってるけど気にしない。
「さあ早く」と言わんばかりに、俺はくわえたポッキーの先を迅に向けた。
「絶対動いちゃダメですからね!」
もう一度、念を押すように俺に話しかけると、迅は目の前のポッキーを食べ始めた。
*