過去拍手御礼小説

□止まない雨もあるけれど
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「止まない雨もあるけれど」











部屋のどこに居ても雨音が聞こえる程の大雨が降っていた



雨音を聞くのは嫌いです。





すぐ側にいる貴女が、何故かとても遠くに感じて

胸をかきむしられたように苦しくなるんです。













「…何を、見ているんですか?」



『……ん? 雨よ、今夜はどしゃ降りだね。』






「そう、ですね…」



隣に立って降りしきる雨を眺めながらも、私の目は窓ガラスに映る彼女の姿を何度も捕らえた。







少し前に話してくれましたね



私と出会う前、愛していた人がいた、と。


その人をずっと待っていた、と。





そしてその人は、


貴女を残してこの世を去り、



その日は今夜のような大雨の降る日だった、と。








『……竜崎?』


「ッ、…その人は……」





貴女の中に今も……






『……え、?』


「いえ、…何でもありません」





本当は、


貴女に聞きたい、

問い詰めたい。





どんな男だったのか、


どうして死んだのか、



私よりも、




愛していたのか……








思い出の中の男への嫉妬ほど

始末の悪いものはない…












『竜崎と初めて出会った日も、雨の日だったよね?』


くるりと笑顔で振り向いた貴女は、私と目が合うと少し不安げに首を傾げた。



「そう、でしたね。」


貴女にそんな顔をさせてしまう程、感情が表に出ていた自分に苦笑して細い肩を抱き寄せた。





『あたし、……雨の日は嫌いだったの…』





「………はい、」

『でもね、』



更にきつく抱きしめて、白い首筋に埋めようとした私の顔を小さな両手が包み込み、それを制止させられた。





『今は好き、……竜崎に会えたから。』


「っ、……でも、」


『ッごめんね、でも傷ついても傷つけても知ってて欲しかったの、……そういう過去を引っくるめてもあたしは、』


頬に触れていた小さな手を握りしめて、気付けばかき抱くように彼女を抱きしめていた。



そして胸の上に熱い吐息を感じたと同時に聞こえた囁く様な声を、

凄まじい雨音に消されてしまわないように耳を澄ませてしっかりと聞いた。








“竜崎を愛してる”



















かきむしられた傷痕を、そっと撫でなれたような気がした。





私と貴女が出会う前、

それぞれの過去の出来事が一つでも欠けていたなら、出会う事すら出来なかったかも知れませんね。





『……ッん、…竜崎、』


「すみません…」



腕を緩めると頬を赤らめた貴女の顔が視界に広がって、嫉妬に覆われていた大事な感情を思い出した気がした。


「私も、……雨の日が好きになりそうです。」



『え、…竜崎も?』


「……はい。」






雨の降る日に私は貴女に出会った



貴女に言ったらきっと笑うかも知れませんが、







私は一目で運命を感じたんです。













雨は朝まで降り続いた



止まない雨と比例するかのように、彼女への愛しさが込み上げて


ソファの上でもベットの中でも今日は彼女を離す事が出来なかった。










「さっき、言い忘れていました。」


『……うん?』



腕の中の貴女は少し眠そうな目で見上げてきて、その愛らしさに思わず口元が緩んだ。







「私も、…貴女を愛しています。」



『…っ、りゅ、…ざきッ』




潤んだ目で見つめられ、

抱き着いてくる柔らかい感触を感じると、


情けない程にまた小さな嫉妬心が込み上げるのも感じる





私の他にこの目に映った男がいる、


この感触を知っている男がいる







でも、私は気付きました。









もう見る事もできない男に嫉妬して、



時間を費やすのは愚かな事。












『…っ竜崎、あたしね、もうあの人の事、…ッ!』

「何も言わなくて大丈夫です…」



私は小さな唇にそっと触れて言葉を制止させた





「…忘れて欲しいなんて言いません、…忘れなくてもかまいません。」


『竜崎…』









「でもこうしている間だけは、……生きている私を見て下さい…」



『…ッ…ぅ、ッりゅ、ざきっ…ぅッ…』



「私は貴女の過去になる気はありません」






シャツを掴んで涙する貴女を抱きしめて、私は目を閉じた。

















止まない雨の日も、

晴れの日も、


私の中は貴女だけです。





だからどうか私の手を離さないで下さいね。










雨の日も、

晴れの日も、





私は貴女の手を離しませんから












たとえ何があっても。






END


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