☆常若の宮☆

□010.しゃぼん玉
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小四郎は病弱で、幼いころから入退院を繰り返していた。そんなある日、彼は鏡を見ていると、不意に自分の前世の記憶を思い出した。
前世の自分である義時は、政の為には、親戚や、家族さえも犠牲にし、国家を守った人だった。
そして義時が死んだ後に、世の中は平和になったが、彼は元来、持っていた素直な優しい気持ちを冷酷になってしまった心の奥に閉じ込めたまま死んでしまった。
その優しい心の部分が現在の小四郎に転生したようだ。
最初は突然のことに混乱していた小四郎だったが、すぐに落ち着きを取り戻すと、自分は哀れな最期を遂げた義時の分も今世では幸せになるために努力をしようと決意する。
だが現実は非情で、小四郎がいくら努力をしても病気は治らず、徐々に体力が無くなっていった。それでも彼は諦めずに必死にリハビリを頑張ったが、結果はベッドに寝たきりの生活になってしまった。
その時から彼の表情は笑顔を見せることも無くなった。
そんなある日、彼にも一筋の光が差した。
「こんにちは!」一人の男が見舞いに来たのだ。「あ...」
優しい笑顔の青年は次郎と名乗った。小四郎にとってその顔は忘れもしない顔だったのだ。何故なら、彼が前世で死ぬ程に愛した重忠であったからだ。
「やっと見つけましたよ!義時殿。現在は小四郎くん...だよね?」「うん」
次郎の言葉に小さく頷く小四郎。すると次郎は涙を流しながら彼を抱きしめた。「良かった!!」その言葉に涙声になりながら抱き返す小四郎。「僕も会えて嬉しいよ...!ずっと会いたかったんだよ...!次郎っ!」二人は涙を流しながら笑い合う。
それからしばらくして落ち着いた頃合いを見て次郎が言った。
「ねぇ小四郎。もし君が望むなら僕が勉強を教えてあげるけど、どうする?」その言葉を聞き、小四郎は少し考えた後答えた。「......じゃあお願いしようかな...?」「本当!?やったぁー!!」そう言った後、次郎は満面の笑みを浮かべて嬉しそうに部屋を出て行った。
その後、月日が流れた。小四郎は相変わらず寝たきりの、体が弱いままであったが、体調が良い時には次郎と一緒に勉強に励んでいた。
次郎によると小四郎はかなり頭が良いらしく次郎はその事に驚いていたのだが、それ以上に小四郎の動かない身体をいつもサポートしてくれた。
ある日
「今日は散歩に行こうか?」
「いいね」
小四郎を車椅子に座らせて、外に連れ出してくれるようになった。寒くないように膝には毛布を掛け、カーディガンを羽織らせてくれる。
「寒くない?」
「大丈夫!」
ふたりでゆっくりと公園を散歩する。
「これ、しませんか?」
手渡されたのは、シャボン玉のセットだ。
「これ、何?」
「これはシャボン玉ですよ」
そういうと次郎はシャボン玉を作ってみてくれた。
「どうです? やってみませんか?」
「うん......」
小四郎の目が輝いた。
「わぁ......綺麗!」
目をキラキラと輝かせる小四郎に次郎が微笑む。
そして二人は空に向かってシャボン玉を飛ばした。
「楽しい〜」
「それはよかった」
それはとても綺麗な光景だった。

END.
2022/11/24
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