短文
□discord
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先程のニアの口調からするに、電話の直前玄関のチャイムが鳴ったのは、魅上を返しに来た者が居たという事だろう。
「か…、神…」
玄関のドアを空けると、ニアの手下であろう存在は無く。
衣服や体こそ汚れていないものの、やつれて目も虚ろになった魅上が床に座り込んでいた。
「…立てるか」
月が手を差し出すと、魅上は無言でその手を取った。
頭の回転が早いとは言え、精神的なダメージは計り知れないのだろう。言うべき事をまとめられず、月の目を見て何とか言葉を捻りだそうとしている。
「神…神……わ…私は…」
「何だ?」
月があまりに責め立てた時等、魅上が眼鏡の奥の瞳を涙で濡らすところを見たことはある。だが今は、まだ月が何も言わないうちから涙を零していた。
「…落ち着いて話すんだ」
「…は…い……神…私は…、情報を漏らす事は…断じてしていません…」
「そうか。分かっているよ魅上」
「…しかし…神…が…ご心配ならば……私を…、」
体の衰弱が限界なのだろう。言い終わる前に、辛うじて壁にもたれかかっていた上半身が崩れた。
月は魅上を抱き上げる。監禁後のやせ細った魅上の体はいとも簡単に持ち上げる事が出来た。
「か…み…申し訳…、ありませ……、」
「お前を殺したりはしない」
蚊の鳴くような、譫言のような小さな声で言葉を紡ぎ出していた魅上は月の言葉を聞いて安心したのか、そのまま意識を手放した。