その他
□たった一つの自由
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「…変な感じだね、偽装結婚とはいえ、異世界で姉弟で結婚しちゃうなんて」
瞳は、やっと二人きりになった部屋で弟の紅蓮に話しかけた。
紅いマントを羽織り剣を携えた青年は、普段自分が知っている彼の姿ではない。
瞳が知っているのは、茶髪でいつもおちょくったように軽口を叩いてくる…小さい頃から面倒見の良かった紅蓮という弟であって、目の前に立つ青年ではない…少なくとも、見た目は。
「仕方ねーだろ、ルイしか思い付かなかったんだからさ」
そのなだめるような口振りは、間違なく瞳の良く知るたった一人の弟のものだった。
この人魚の実在する世界ではグリーエンという、ロッド国の王子…その王子の中に今紅蓮の意識(魂?)が存在しているのだ。
金髪の長い髪を困ったように掻きながら紅蓮は言葉を継ぎ足した。
「…本当にさ、今回は助かったって思ってるよ、……サンキュな、ルイ」
「………ま、良いけれどね…」
それでも流石に実質上夫婦とはいえ同じ部屋に寝る訳にもいかず、人の目がなくなった頃に別室に向かうのが瞳の1日の終わりの日課となっていた。
「じゃ、ぐっちゃん、また明日ね」