・短・ 

□*欲張り*
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「もう止めにしねぇか。」




情事の熱もまだ収まりきらない布団を嫌がるように抜け出して、冷たい畳に座っている原田は冷めた声で呟いた。


帯も結ばない着流しを肩から羽織っただけの姿は投げやりというか、苛立ちに似た空気を放っていて布団に寝転んだままの土方は小さく笑った。




「……飽きたか?」




理由も無く始まった体だけの関係だから終わる時もまた、理由無く終わるものだ。


そう仕向けて来たのは自分なのに、終わる理由を聞きたがる自分の言葉はさぞ気に入らないだろうと思う。



それでいいと思う。

お前を利用し続けて来たのだから憎まれて終わったとしても不満など無い。

この関係が終わったとしても毎日顔を突き合わせる事に変わりは無い。


だったら底冷えする位に厳しい眼差しを向けてくれていい。



お前は俺に捕われてなどいないのだからあっさりと捨ててくれ。




「……ハッ……飽きたか、ねぇ……。」




渇いた笑いを口から零すと、原田の体が小さく揺れた。

両脚を畳に投げ出すと天井を仰ぐ。


その眼差しが自分を捉える事は無い。


そのままでいてくれ。




「随分な理由付けだな。まぁ、なんでもいいさ。」




呆れたような笑いを含んだ顔は自分に微塵も未練など無いと言っている表情だ。


それでいい。


だからお前を選んだんだ。




「わかった。今まで付き合わせて悪かったな。」




お前は見ていないだろうが、微笑みを作って俺は言う。


もうお前を求める事はしない。

その腕を引く事はしない。



充分、介抱してもらった。

腐った病を抱えた俺を。


ありがとうと言えない俺を憎め。



「……一つ、聞いていいか?」




羽織りに帯をかけながら原田は低い声で問い掛ける。

視線はこちらには向いていないのにその横顔を見つめた。



お前の問いに今まで何も答えた事など無いのに。


お前の願いを今まで何も聞き入れた事など無いのに。



まだ、お前は俺を見捨てないつもりなのか?


優し過ぎるっていうのも酷だな、原田。




「なんだ。」




最後くらいは、答えてみようか。

もう終わりになったのだから此処で何を答えようと変わらない。


お前が俺に望む事がまだあるのなら一つくらいは叶えてやろう。



散々、利用した償いがこんなものならあまりにも易い。




「俺はあんたの役に立ってたか?」



そっと視線を向けてきた原田の顔は穏やかなのに真剣で。


そんな簡単な答えさえ、原田に伝わっていなかったのかと知る。




「有り余る程な。」




俺を抱く時の優しい腕を覚えてる。


俺を見つめる時の優しい瞳を覚えてる。



いつも救われていたんだ、原田。

有り余る程に。本当に。



手放したく無い位に、な。




「……そうか。……ククッ、惜しい事したぜ。」


「……何がだ?」




楽しそうに笑う原田が意外で土方は問い掛ける。


原田は髪をかきあげて笑っている。




「欲張らなきゃもっと気持ち良かったんだろうと思ってさ。折角あんたを抱けるなんて大役貰ってたんだからな。」




原田の笑い声に力が無くなって行く。


欲張り。


それは俺の方だろう?


お前を縛っていたのに何も与え無かったんだから。




「欲深いってのは損なんだな。」



薄く苦笑いを浮かべて一度微笑んだ後、原田は静かに立ち上がり背中を向けた。


もう二度と振り向かないだろう広い背中を見つめた。




「おやすみ。」




背中で襖を閉めながら小さく呟いて行った。


その声は決して自分を責めてなどいなくて、それでいてはっきりした決別も表していた。




「……おやすみ、左之。」




二度と呼ばないその呼び名。


自分が起こしたいびつな関係の傷があるなら受けるのは当たり前だ。


だから俺は思う。



お前は欲張りなんかじゃない。



ただ、優しいだけだ。



優し過ぎただけだ。












20101216




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原土でした。

珍しくちゃんとカップリングっぽい話書いた気がします(笑)
ちゃんとやってるし(笑)

原田は基本ノンケだと思うのです。だから土方さん一人だけを好きとかどうにも似合わない気がしてどちらかというと駄目になってしまいそうな相手を救う方法が体なら与えてやるというようなタイプに思えます。
でも体を重ねれば情だけでは終われないから深入りしようとしてしまうみたいな。でも諦めも早い気がする(笑)来るもの拒まず、去るもの追わず精神。

原土だと表明上は原田が追いかけるけど内面は土方さんが追いかけそう。
後書き長いな(笑)

 
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