・短・
□*性*
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頭の重みを斎藤が触れる手に預けて静かに目をつぶると心地好い感触と一定のリズムで繰り返される動作に微かに眠気が襲ってくる。
毛先から始まった作業は漸く三分のニまで進行したといった具合でこのままではいつ終わるかわからない丁寧さ。
閉じていた瞼を薄く開いて背を預かる斎藤を見上げればなんとも言えない穏やかな微笑みを浮かべているから困る。
こんな面倒でしか無い作業でさえも嬉しいといいたげな顔。
大切なものに触れているといいたげな優しい温もり。
そんな斎藤を見ていたら更に眠気が自分を包んで行ってしまいそうで土方は必死に目を見開いた。
「斎藤、もういいだろ。殆ど渇いたじゃねぇか。」
「頭を乾かさなければ体が冷えます。もう少しの辛抱ですからお待ちください。」
普段は従順なくせに、変な所で頑固だ。
とりわけ自分の事となるとその頑固さがやたらと目について、何と言うかこういうのを過保護とでも言うべきか。
「……いい加減眠くなっちまうぜ。」
「時間がかかり申し訳ありません。副長が窮屈で無ければ俺を背もたれに眠ていただいて構いません。髪が乾き次第、俺が副長を布団に運びます。」
申し訳なさそうな表情を浮かべ、優しい声で告げる斎藤に土方は面食らってしまう。
斎藤は言いながら立っていた体制を変え、膝立ちになって自分を背中から包むように抱き込んだ。
普通に恋仲な関係ならどうにも落ち着かない体制なはずなのだ。
背中から抱きしめられた格好なんて、親が子供にするような温もりの与え方をされると妙に気恥ずかしい。
だが、自分の中の困惑とは裏腹に斎藤の左手は止む事無く自分の髪を撫で続けている。
これも性格なのか。
無意識にしているのだろうし本気で自分を寝かせるつもりだというのは明確だ。
だが、そんな身勝手な行動さえも許されるのが少し気に病む。
二人でこんな風に過ごせる時間も多くは取れない中で文句も言わず自分を待っていて。
終わらない仕事を片付けている間に髪を乾かしてもらっている分際で勝手に眠るなど。
そんなのは思いやりのカケラも無い気がして許せなかった。
二人きりになってから自分は殆ど斎藤を見てもいないのだ。
これでは仕事の時の上下関係をなんら払拭出来ていない。
今は対等な立場であって。
我が儘だって何だって聞いてやれる数少ない時間なのだ。
ーーいつもいつも、俺ばかりが与えられているな。
お前を信頼し、お前が信頼を寄せてくれているのをいい事に。
汚れ仕事や嫌な役回りをいつも無意識にさせてしまっている事にも気付いてる。
それは信頼の中に生まれた微かな甘え。
自分を好いてくれている弱みにつけ込んで自分が楽で居られるんだ。
ーーお前なら大丈夫だろう。
ーーお前にならいいだろう。
何をしても、させても許されるとは思っていない。
だが、お前に任せるのであれば、他の奴に任せた時のように失敗したらどうするとか大丈夫だろうかと不安になる思いが必要無いから。
他の奴らを信用していないわけじゃ無い。
ただ、お前なら。
俺が惚れ込んだお前なら、と。
いつも甘えている。
俺は。
今も。