・短・ 

□*共*
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もし、今。


貴方が此処に居たら。


俺はきっと、泣いた。



男が泣くなんて情けなくてみっとも無いだろうに、それでもきっと泣いた。


それだけ貴方を恋うている。


黒髪が揺れる残像を見付けては、幾度と無く本気で振り返ってしまう。


考えないようにしなければならない。


思い出さないようにしなければならない。



だからこそ、俺はきっと泣く。



これを後悔と呼ぶのだろうか。



自分で自ら選んだ道。

自分で自ら決めた事。


それでも貴方が住まう、北へと思いを馳せる。




ーー貴方は生きていますか。




ただ命を失わないのでは無く、生きて欲しい。


明日を、未来を見つめて生きて欲しい。



その傍らに彼女が居るから。


明日を生きる術を見出だして欲しい。



だから、死なないで。


自分が背負って来た、生き甲斐の為には死なないで。


戦場にその荷物を葬って。



彼女と生きる明日の為に生きて。


離れていても、心は同じ。


だから、貴方はきっと大丈夫。




俺の命は果てたとしても。


魂はいつも、貴方を想う。



彼女を見つめる眼差しが優しかったのを知ってるから。


貴方を見つめる眼差しが優しかったのを知ってるから。



貴方と彼女は未来に進む理由がある。





「斎藤さん!無理です!砲弾が激しく、抜け入る隙がありません!」


此処もきっと冬は近付いて来ているのだろう。


なのに、ちっとも寒く無いのは周りが火で包まれているからか。

戦に高ぶった己が熱いのか。



どちらにしても、きっと冬は近い。



あの人は雪を見ただろうか。


あの人は寒さに顔をしかめていないだろうか。



きっと、二人で居れば寒くないはずだ。


それに自分と同じ激戦の渦中、血がたぎっているかもしれない。



「俺が先陣を斬る。そこに風穴が空けば一気に攻めろ。俺では埒が明かないようなら迷わず撤退しろ。」



貴方ならきっと馬鹿な事を、と俺を怒鳴りつけるだろう。


自分でも同じような行動を取るくせに、人の事は守ろうとするのだ。




ーー申し訳ありません、副長。




俺は本当は、誰かを使えるような人間では無いのです。


貴方に使われてこそ、意味がある。



任されるなんて、出来ないのです。




「無駄死にはするな。冷静に状況を判断しろ。いいな。」




死に急いでいる訳ではありません。


貴方と掲げた誠の旗。


俺の心にいつでも刻み込んでいます。



死にたい訳ではありません。


貴方と離れていても、心はいつでも共にあると。


俺の心の中にいつまでも刻み込んでおきます。




貴方は明日を。


愛する人と未来を歩いて。



俺は過去の産物。


時代に抗い一人で落ちていく。




きっと、貴方は知らない。



貴方の存在しない明日など。


俺には、無い。


貴方の存在しない未来など。


俺は、要らない。




だから、明日も未来も全て。


心ごと貴方に捧げたいのです。




もし、俺が生きる運命の時間がまだ少しでもあったのなら。


その分を愛するあの二人に分けて欲しい。




貴方と心は共に。


貴方の心を共に。




いざ、誠の旗を掲げて。





「新選組三番組、組長。斎藤一、参る。」












20110105



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ド、シリアス(笑)

会津に残った斎藤の独り言です。あの時の斎藤ってどんな気持ちだったんでしょうか。
あまり真剣に掘り下げると泣きそうになるので、さらっとした独り言にしてみました。


 
 

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