・短・ 

□*X'mas*
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もし雪が降ったら。


あの人を抱きしめてあげたい。



もし雪が降ったら。


あの人を温めてあげたい。



もし、雪が降らなかったら。







冬休みに入り生徒達が居ない学校内は静まり返っていて、いつもより冷たい空気が辺りを包んでいる気がする。


がらんどうの校庭も校舎も何故か物寂しげに見えて、寒さを感じた沖田は着ているセーターの袖を伸ばして指先まで包んだ。



自分の吐き出す息が白い。


口をすぼめて吐き出せば、まるで煙を吐き出しているようにも見える。



あの人みたいに。





「お?総司じゃねぇか。冬休みだってのにどうした、忘れもんか?」




校舎の入口に立ちすくんでいる沖田を見付けた原田が笑いながら声をかけてくる。


この寒さだというのにワイシャツ一枚の格好で平然として居る原田の神経はどうかとも思うが、気さくな態度は嫌いでは無い。




「原田センセこそどうしたんです?冬休み返上でお仕事ですか?」



指先まで包んだ袖を顎にあててからかうように笑う沖田を見て、原田は困ったように笑った。




「いいや、俺こそ忘れモンだ。これが無きゃ休みが台なしだからな。」




そう言いながら、原田は手に持つ赤い携帯電話をチラチラと揺らす。


大方、男女問わず遊びの連絡が引っ切り無しにかかってくるであろう原田の携帯。

そのツールが無いのでは彼が休みを満喫出来ないのは必至だ。




「随分大事なものを忘れたんですね。そりゃ休みも押して取りに来ますよね。」




沖田は目を細めて微笑む。


寒さで頬が固いからか微かに強張った笑い顔に見えたのかもしれ無い。


そんな沖田を見た原田は少しだけ眉を寄せた。




「お前も大事な忘れもの取りに来たんだろ?」




寒空の中、動きもせず。


ずっとこの場所に立っている。


いつもより血色を失った白い肌が証明。




原田の言葉に沖田は苦笑いを浮かべる。

空を見上げてどんより雲を眺めてからゆっくり息を吐いた。




「忘れものを取りに来たんじゃ無いんです。忘れものがあるか確かめに来たんです。」




目の前の駐車場にずっと停まっている黒い車。


あの人が此処に居る証拠。


あの人に会える場所。



もし雪が降ったら。


あの人を抱きしめてあげたい。


もし雪が降ったら。


あの人を温めてあげたい。



もし、雪が降らなかったら。




沖田の横顔を眺めてから原田はやれやれとため息を吐いて、校舎のある一つの部屋に視線を投げる。

自分が見上げている部屋にはきっと沖田の待ち人が居る。



沖田と同じように白い息を吐きながら。



たった一人で。




「……風邪引くんじゃねぇぞ、青春小僧。」


「風邪引かないでくださいね、おじさん。」


「うるせぇよ、ガキ。」




自分が此処に居て出来る事は無いと悟った原田は沖田の肩をぽんっと叩いてから立ち去る。


冷たい風に肩を竦めながら歩く背中を見送って、沖田は自分が吐き出す白い息を見た。




空からは、雪は落ちて来ない。



この場所に、あの人は現れ無い。


いつまで待てばやってくるだろう。



雪が降るのが早いか。


あの人が来るのが早いか。



どちらも叶わず終わるか。



クリスマス、12月25日。




もし、雪が降らなかったら。




 
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