・短・
□*好奇心*
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好奇心は時に、知らない己を発掘する。
「……なぁ、左之。」
「ん?」
人が行き交う廊下をぼんやりと見つめながら、広間で胡座をかいている新八が隣で槍の手入れをしている原田に呼び掛けた。
原田は返事は返したものの、視線を手元に向けているので新八が何を見ているかなど知らなかった。
「……お前さ、男抱けるか?」
そこに、唐突な質問。
「あぁ!?」
「…あっ、あっぶねぇなぁ!」
新八のあまりにも突然の問いに驚いた原田は槍を持ったまま勢いよく新八に体を向けた。
拍子に槍が新八の頬を突き刺すギリギリの所まで迫ってしまい、新八は慌てて体をのけ反らせる。
悪いのは新八だが。
「新八…お前、どうした?なんて質問しやがんだよ。」
原田は戸惑いと焦りの混じる苦い表情で新八の顔を覗き込む。
それはそれは、ありえない質問だったからだ。
「いやさ、この前ひと騒動あったろ?なんか思い出しちまって。ふと、疑問に思ってなぁ。」
「……あぁ……あれか。」
新八の答えに原田は苦笑いを浮かべる。
新八の言う、ひと騒動とはつい先日隊内で起きた事件。
新人隊士内で二人の隊士が一人の隊士を取り合い、斬り合い寸前の喧嘩をした事だ。
方々から集まった男所帯の中で女が居ない生活が続くと、ときどきこういった事態が起きる事がある。
新八からすれば考えた事も無い感情だが、身近で何度も目の当たりにしていくとそんな事はまれでは無く、結構有り得る事なのかと考えていたのだ。
廊下を横切る隊士達を見ては、あいつは無理、あいつならいけるかも、なんて考えてみたりした。
「抱いた事は無ぇけどよ、まぁ……出来るか出来ねぇかって話なら出来ねぇ事も無ぇって所じゃねぇの?」
新八が何を見ているかわかった原田も、廊下を行き交う人間を目で追いながら心の中で可否をつけていた。
試した事は無くても出来るような気がするが、出来る相手と出来ない相手がいる。
それには見た目や体格など外見で判断する要素が殆どを占めていて、要は見た目が若干でも女性らしいというか綺麗ならアリかもしれないという見解だ。
原田の答えに新八は口を閉ざして何やら考え込んでいたが、不意に顔を上げて原田を見つめた。
「……お前さ、俺を抱けるか?」
「はぁぁ!?んなワケねぇだろ!お前の何処にそんな要素があんだよ!」
真剣な眼差しで聞いてくる新八に原田は思いっ切り嫌そうな顔で否定した。
一番近い人間であって親友である新八をそんな風に見れるわけが無い事もそうだが、判断すべき要素である外見が新八は問題外だった。
体力自慢の筋肉馬鹿。
自分と同類だからだ。
「お前だって俺は無理だろ?いろんな意味で一番無理だな。」
原田は苦笑いしながら新八に告げる。
新八も、そりゃそうだと笑った。
「じゃあさ、お前、誰ならイケる?ここだけの話、誰なら抱けるよ?」
段々この話題が面白くなってきた新八は原田に耳打ちするように前屈みになって問い掛けてくる。
暇を持て余した二人のくだらない好奇心が花咲いてしまった。