・短・
□*来年の話をすると鬼が笑う*
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年の暮れも迫る十二月三十日。
朝一番に召集をかけられた幹部達が顔を揃える広間に、山南が現れた。
「皆さん、揃ってますね。では報告がありますので聞いてください。」
思い思いの場所で座りながら雑談している面々を見渡した後、山南が口火を切る。
皆の視線が山南に注がれた。
「大坂に居る山崎君から連絡があり、急なお話ですが今から土方君が大坂へ向かう事になりました。その同行者を一名、どなたかお願いしたいのですが希望者はおりますか?」
山南の言葉を聞いた途端に、顔を歪めた永倉がまず最初に口を開く。
「はぁぁ!?年末だってのに今から大坂に行くってのかよ!?年暮れも年明けもゆっくり出来ねぇなんてそれは無ぇんじゃねぇの!?」
「新八っつぁんの言う通りだよ!なんだってこんな時に……土方さんも年末位ゆっくりすればいいのになぁ。」
「おぃおぃ、大坂っつったらヘタすりゃ年明けは舟の上かもしれねぇんだぜ?酒も呑めねぇ正月なんかあるかよ。」
新八の意見に賛同するように平助と原田も、揃って不満の声を口にする。
「僕も嫌です。せっかくの新年をあの二人と過ごすなんて真っ平御免ですよ。」
酒が呑め無い事や、正月なのにという不満を口にした三人とは違い、確実にメンツに文句を言っている沖田も拒否反応を示している。
「ならば俺が行こう。副長の身を山崎だけに任せてはおけん。」
その中で唯一、心から志願している斎藤が承諾の声をあげた。
皆が一斉に安堵の表情を浮かべる。
「い、いいのかよ、一君。」
「無論だ。誰もが休みたがるこの時に副長が休みを取らんのだ。俺だけ休むなど出来るはず無かろう。」
犠牲者となった斎藤を気遣い、声をかけた平助に向けられた言葉は斎藤自らの本音なのだろうが、実際休みたいと文句を口にした面々に取ってはバツの悪い内容となった。
「では斎藤君が付き添い、という事で宜しいですか?皆さん異存はありませんね?」
皆の結論を待っていた山南は周りを見回しながらゆったりと決定の意を促す。
斎藤以外の面々は若干、気まずい雰囲気で苦い顔をしていた。
「なんか斎藤だけ働かせるっつーのもいい気分じゃねぇよな。やっぱ、俺が行くか?どうせ年末ったって酒呑む金も無ぇし。」
一番最初に文句を口にした事に気が引けているのか永倉がおずおずと代わりに行くと口にする。
永倉の言葉を聞いた山南はにっこりと微笑んだ。
「永倉君、心配要りませんよ。此処に残った皆さんにも簡単ですが、用事はありますので斎藤君だけを働かせるというわけではありません。」
「お、そうなのか?」
山南の言葉に皆に微かな安堵の表情を浮かべる。
これで斎藤だけに重荷を負わせたのでは無いと救われるからだ。
山南は終始、にこやかな笑顔。
「そんなら、まぁ皆働くっつう事で問題無ぇな。で?山南さん、用事って何だ?」
新八同様、早々に文句を連ねた原田もにこやかな笑顔を持って、山南に問い掛ける。
皆の視線が、また山南に集められた。
山南の微笑みは変わらない。
「皆さんには、大掃除をしていただきます。」
その言葉に、斎藤を除いた面々の表情が固まった。