・短・
□*可愛く無い*
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可愛いから虐めるとかよく言うけど。
僕は別にあの人を可愛いなんて思って無い。
だって、可愛く無いじゃない。
あの人。
いっつも一人で何でも抱え込んで。
辛い顔一つ見せないで。
誰にも甘えたりしないし。
目付き悪いし、口も悪い。
見てくれだけは涼しげでも腹の中は真っ黒だし。
可愛く無いじゃない。
だから虐めるだけ。
怒ったり、笑ったり、呆れたり。
感情を晒け出した格好悪いあの人になればいい。
少なくとも僕は。
そっちのがあの人らしいと思うから。
可愛いなんて思わないけど。
「……っ、総司ぃー!!」
屯所内に響き渡るけたたましい叫び声に庭を飛び跳ねる雀も瓦でうたた寝をしていた猫も一目散に逃げ出した。
それが誰の声であるかも誰が呼ばれているのかも明確で、広間でだべっていた幹部達は慌てる様子も無く、ただ呆れ顔になりため息を吐き出す。
「総司の奴、まぁた土方さんにちょっかい出してんのか。今日は何やらかしたんだか。」
「懲りねぇよなぁ総司も。なんか週に一度の恒例行事になってねぇか?」
「……だな。土方さんも何だかんだで総司のおふざけに本気で取り合っちまってるのも悪いんだけどよ。」
広間で将棋を打っている新八と平助が呆れ声でぼやき、壁に寄り掛かりうたた寝をしていた原田も同調の意を漏らした。
土方の怒号のせいで心地好い眠りを妨げられた原田の顔は些か不満そうだ。
「朝の土方さんの顔見ただろ?殺気立った顔して目茶苦茶機嫌悪そうなあの人によく悪戯なんかする気になるよな。」
そんな時の土方に自分が悪戯なんかしたらどんな雷が落ちるか、と想像した新八が恐怖に身震いしながらぼやく。
「本当、本当。朝飯の時にちょっと騒いだだけですんげぇ睨まれたもん、俺!まさに鬼の形相ってやつ!」
将棋を打つ小気味よい音を奏でながら平助も不満そうに愚痴を零した。
「まぁ、あの二人が喧嘩すんのは日常茶飯事だとしても、大抵土方さんがそういう時には総司がわざとガキみてぇな悪戯やらかすからな。」
長槍を懐に抱えながら原田は苦笑いする。
含みを込めた言い方に二人は嫌そうな顔をした。
「じゃあ何か?総司は土方さんが機嫌悪いのを見計らってわざと怒らせるように喧嘩吹っかけてるって事かよ!?」
「げぇ、信じらんねぇー。総司の怖いもの知らずにも程があるよな。」
考えられないと言いたげな二人は笑っている原田に向かって顔を歪めながら言った。
原田は可笑しそうにククッと喉を鳴らした。
「要はあいつなりのご機嫌伺いなんだよ。毎回それに引っ掛かる土方さんもわかってんだかわかってねぇんだか、ククッ……可愛いもんだよな。」
「か、可愛い!?可愛いって誰がだよ!?」
不可解な原田の言葉に新八と平助は立ち上がって抗議する。
原田はそんな二人を見ながらも、また楽しそうに笑っていた。