・短・ 

□*名残*
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僕達は鮭のようだ。


川の流れに逆らいながら必死に昇り続ける。


この身が擦り切れて血だらけになっても。


共に高みを目指した仲間達が力尽きても。



ただ前だけを見て命の限り泳ぎ続ける。



皮膚が剥がれ、肉がちぎれて呼吸さえも覚束ない体になって漸くたどり着いた終着点。

そこであっさりと鳥につままれる事だってある。



時代の流れに抗いながら自分達の目指したものを追い続け、守るものの無い戦いを繰り返す事に意味さえ問えない。


走り続けてふと、振り返れば自分の後ろには腐る程の屍が転がるだけだ。


だから振り返る事はしない。

それをしたら激流の強さに負けて流されてしまう。



僕達はまるで鮭のよう。


目指した場所に辿り着いたら。


何かを残して死ねるだろうか。



どれだけの屍を越えても見えない終着点。



あの激流の先に何があるのか。



もう泳ぐ事さえ叶わない自分には何もわからない。



ただひたすらに泳ぎ続ける彼等の姿を見つめて。


ただ肉が腐るのを待つだけの存在。



なんて、情けないんだろう。


なんで、泳げないんだろう。



僕達は鮭のように。


抗う事を止めようとしないはずなのに。



僕だけは動きを止めた。


血ヘドを吐くしか脳の無い。


役立たずな屍に成り下がる。



きっと誰も振り向いてはくれない。



自分も振り向いて来なかったから。




ただ、一人。



死ぬのを待つだけだ。




そんな僕に会いに来て。




「お前は死なねぇよ。一番組、組長の席はお前の為にいつまででも開けておく。」




そんな慰めも励ましも優しい微笑みで口にする貴方を見る度に思う。




ーー貴方が嘘をつく時は。


ーー凄く、優しいんですね。




鬼の副長でも、新選組副長でも無い。


僕を優しく見守る兄のように。



貴方は酷く、優しい。



だから僕は悟るんです。




ーーあぁ。僕は死ぬんだなって。



でもそれを口にしたりはしない。

だって、貴方が僕に言っている慰めや励ましは。



きっと貴方自身に言い聞かせているから。


僕は死なないと。


血ヘドを吐く事しか出来ずに毎日毎日衰弱して行く僕を見て。


組長の席を任せられるはずなど無い、肉の落ちた痩せた腕を見て。



きっと、大丈夫だと。


死ぬわけなんか無いと。




貴方はきっと自分に言い聞かせている。



それは僕を必要としてくれている証。



こんなに情けない姿になっても。

こんなにみっともない僕になっても。



生きる事を止めないのは。



全て貴方の為なんです。



僕が呼吸を続ける事を貴方が望んでくれているから。


どんな姿でも生きていて欲しいと貴方が望んでくれているから。



泳げもしない布団の上で。



動かない体を横たえて呼吸するだけ。




早く、僕を見捨てて欲しい。



貴方に、僕は必要無い。




 
 
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