・短・ 

□*性*
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人の性格は簡単に変わるものでは無い。


生きてきた過程で培ったものもあれば、生まれながらにして持ち合わせたものもある。


だが、環境や状況の変化に応じて変わっていくのもまた然別。



それでも揺るがない性格があるのならばそれは性格では無くて。



性(さが)である。



もう、何があろうと揺るが無い性。



良いか、悪いかは別問題。







「お、もう来てたのか。」




湯浴みを終えて自分の自室の襖を開けると、そこには此処に居る事に違和感の無くなった男の姿があった。


律儀にきっちりと正座をし、部屋の隅に佇む姿は一瞬、座敷童かと思う程に気配を消している。

それが自分を驚かそうとか意地の悪い行いならば蹴り飛ばしてやりたい所だが、そうでは無いから仕方ない。



周りに悟られまいとする配慮と。

いつまで経っても無くならないらしい緊張故のもの。



そんな姿を少し微笑ましくも感じる。




「……黙って入室してしまい申し訳ありません、副長。」




部屋に明かりも燈さずに深々と頭を下げる斎藤の姿を見下ろして土方は呆れたようなため息を零す。



「俺が入ってろっつったんだろ。いちいち謝るんじゃねぇよ。」


「……申し訳ありません。」




助け舟を出しても更に謝罪を繰り返す折り目正しい斎藤。

副長である自分への対応ならば感心すべき礼儀なのだろうが。



今は素の時間だというのに。

自分には似合わな過ぎて、そう表現する事も憚れるがつまり逢瀬の時間という事。



なのにいつまで経っても変わらない態度の斎藤に土方は半ば呆れに似た思いさえ感じる程だ。




「ちょっと待ってろ。目を通しときてぇ文だけ見ちまうから。」


「はい。」




とりあえず何を為すにしてもやるべき事だけは処理しておきたい土方は着流しを靡かせて机の前に腰を下ろす。


明かりを燈し、読み途中の文を手に取る。
作業の邪魔になる洗いざらしの長い黒髪を結いもせずに手ぬぐいをただ巻き付けて背中へと流した。



それを見ていた斎藤が静かに口を開いた。




「副長、畳が濡れてしまいます。髪をお拭きしてもよろしいですか。」


「あ?おぅ、悪ぃな。」




何も気にしていなかった土方は斎藤の申し出を素直に聞き入れる。

座敷童と化していた斎藤がゆっくりと立ち上がると土方の後ろに立ち、優しく手ぬぐいを髪から外していった。

乾かし方も乱雑なはずなのに痛みを知らない土方の髪は水気を含んでしっとりと手に馴染む。




「適当で構わねぇぜ。どうせ勝手に乾くからな。」




文に視線を落としたままの土方は興味なさそうにそう口にするが、斎藤の手は髪を掻き回すのでは無く、手ぬぐいで髪の束を包み、少しずつ水分を吸っていく丁寧な仕種だった。


これも相変わらず。




「副長に風邪を引かれては困ります。暫く辛抱なさってください。」




あくまで完璧を求める斎藤の声ははっきりと強いものだった。


本気で自分の体を心配しているのもわかるし、一度やると決めたら自分が納得するまで貫くのも斎藤の性格。



土方はやれやれと後ろ手に体重をかけ、されるがままになった。




 
 
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