・ 企画小話 ・

□◆色男が恋に落ちる条件◆
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「はぁ、はぁっ、……くっ、……はっ」

 一体どれくらいの時間を走り続けているのだろうか。

 乱れる呼吸に舌打ちしたくとも、僅かな隙が命取りになる戦いの最中で。

 道無き山道を本能に促されるままに奔走していた土方は、背後に迫っていた追手の数が先ほどに比べ確実に減っている事に安堵して、己の隣に付き従っている人物へと視線を向けた。

 土方の直ぐ右隣を並走している男は、自分よりも大きな獲物を抱えていると云うのに。

 日頃の鍛錬の差が出ているのだろうか、走る速度にも呼吸にもまだまだ余裕が窺える。

「原、田っ、…この先でっ、…片を付けるぞっ」

 単語単語で発しながら、走る速度を加速させた。

「ああ、判ったっ。俺が盾を引き受けるから、土方さんは横合いから斬り込んでってくれっ」

 このまま走り続ければ、その先には恐らく崖があるのだろう。

 木々の切れ目が見え始め少しずつ明るくなる視界と、僅かに前方へと傾斜している様子の地面に、気を緩めば縺れそうになっていた足が走り安さを感じてきた。

 追手の数は確実に減っている。

 地の利も自分達に味方をしてくれている。


 よし、イケる――


 それまで原田と並んで走っていた土方は、視線だけで彼へと合図を送ると、走り続けていたとは思えないほどの俊敏な動作で真横へと飛び、その進路を90度変更させた。


 
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