・ 企画小話 ・

□◆雪◆
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雪はあんたに似ている。
白くて、美しくて、冷たいのに、暖かい…
気まぐれに俺の元にやってきても、手を伸ばせばすぐに消えてしまう。
決して手に入らない存在…



浪士組に加わり、京へとたどり着いた俺達は、壬生の郷士・八木さんの家に厄介になっ
ている。
試衛館にいた頃とさして変わらない貧乏暮らしの俺達は、京の底冷えする寒さに対して
少しでも節約して暖を取るために、火鉢を置いてある部屋に自然と集まることが多い。

数少ない火鉢が置いてある部屋の中で、最も人が少ない場所、土方さんの部屋に俺はい
つも来ている。


「よく降るよな、雪。」

「そうだな。」

「江戸はそんなに降らねえから、最初は珍しかったけど、あんたは寒がりだから辛いん
じゃねえか?」

「全くだ。金がねえから、十分な量の炭も買えねえし…」

「俺が暖めてやろうか?」

チラリとこちらに視線を向けると、ニヤリと笑いながら答える。

「お前のその身なりを見てるだけで寒そうだよ。」

あんたには全く伝わってねえみたいだが、本気で言ってんだけどな…。

「試衛館で雑魚寝をしてた頃のこんな寒い日に、隣で寝ていたあんたが、俺に抱きつい
てきたことがあったじゃねえか。あの時は、一晩中抱きしめて暖めてやっただろう?」

「あぁ、あの頃は火鉢なんざねえ上に、板間に煎餅布団だったからな…無意識にぬくも
りを求めたんだろう。朝、目が覚めてびっくりした記憶がある。」

懐かしむように目を細め、笑いながら話す姿に愛しさを感じるが、その内容はあんたに
惚れてる俺には結構辛辣だよな。
全然気にされてねえってことは、相手にもならねえってことだもんな。


「副長、斎藤です。茶をお持ちしました。」

「おう、入れ。」

「失礼いたします。」

仕事の手を止め、部屋に入ってきた斎藤を見遣ると、あんたは柔らかい笑みを浮かべた


「いつもすまねえな。」

「温かい茶で少しでも副長の寒さを和らげることができれば、と思い。」

…見交わす視線を見ていれば、嫌でもわかっちまう、二人がお互いを想い合っていると
いうことが。
試衛館にいた頃から、俺もずっとあんたを見てきたんだ。


男相手にこんな想いを抱くなんざ考えもしなかったから、正直どうしたもんかと悩みな
がらも、土方さんだったら、アイツの時みたいに夢か恋人のどちらかを選ばなくても、
両方を掴むことができる、なんて気楽に考えて悠長に構えてきたが…
まさか、京で斎藤が再び俺達の前に現れるとは、な。



斎藤が試衛館で初めてあんたと言葉を交した時から、ずっとあんたのことを目で追って
いるのには気付いていた。
寡黙で色事にはあまり積極的ではない斎藤は、特に何をするでもなく、ただ見詰めてる
だけだったが、ある日パタリとあいつが試衛館に来なくなってからは、あんた自身も斎
藤が気になっていたことに気付いたようだったな。

何の連絡もない斎藤を探す手立てもなく、京に上ることになっては、ますます会うこと
も叶わないだろうと思っていたが、フラリとあいつが屯所に現れて、給金や芹沢さん達
のことで始終渋面だったあんたが、久しぶりに晴れやかな笑顔を見せた時に、こりゃぁ
敵わねえなって悟っちまった。


あんたの隣で、恋人として、同時に夢も掴もうって思ってたが、二兎を追う者は何とや
らにならねえよう、せめて夢だけは…あんたの夢を叶えてやる手伝いぐらいはしてやり
てえ。


「どうしたんだ、原田?急に押し黙っちまって。」

心配そうに小首をかしげて俺を窺い見る。
烏の濡れ羽色のような黒髪がサラリと流れ落ち、思わず手が伸びた。

「んっ、何か付いてるか?」

相変わらず何の警戒もしないあんたに、苦笑いが漏れる。

「いや、ずいぶん伸びたと思ってな…」

「ああ、そうだな。」

明らかに斎藤に向けるのとは違う笑み。
静かに横に座している斎藤の訝しげな視線も痛いし、そろそろ退散の頃合いだな。

「じゃあ、俺は市中の見回りにでも行ってくるかな。」

そう言って立ち上がると、土方さんがすまなそうな顔で見上げ、口を開く。

「まだ雪は止んでねえのに、悪いな。だがいつか、こういう日々の行いが認められる日
が来るはずだ。頼んだぞ、原田。」

「はいよ。じゃあな、斎藤。土方さんをよろしく。」

「…左之、それはどういう意味だ?」

「さあな…」

笑いながら副長室を退室する。


雪が降り続く中、俺はブラブラと市中を見回る。
せめて今日は、あんたと似ている雪でも愛でようか。







― あとがき ―

卯月様、お待たせしました。
ご希望は『大人な雰囲気の原土』だったんですが、『ラブはなくても良い、廊下を通る
だけでも良い』というのも加味しましてこんな感じになりましたが、いかがでしょうか

うちのシリアス担当は総司なんですけど、原田目線にしたら暗くなってしまって…新た
なシリアス担当キャラの発掘となりました(苦笑)
では、ご希望と違ってましたら遠慮なくおっしゃってくださいね!

(お返しコメント)

庵様!我が儘なリクエストを受けていただき、ありがとうございました!!
片想いの原田……なんて可哀相で素敵なのかしら(笑)

本当にありがとうございました!!

 
 

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