・ 企画小話 ・
□◆バレンタイン◆
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逆チョコ(斎土)
土方が部屋に帰ると、合い鍵で入っていた斎藤が、ソファの端に畏まって座っていた。
「お帰りなさい、土方先生。」
「ただいま。お前、そんな隅っこに座らずに、もっと寛いでて良いんだぞ。」
「端の方が落ち着きますので…」
「そうか?」
上着を仕舞った土方は、斎藤の横に座ると、ソファの前のテーブルに、持ち帰った複数
の小さな紙袋をドサリと置いた。
「チョコレート、ですか?」
「そうみたいだな。今日がバレンタインだって、渡されて初めて気付いたがな。」
「先生はモテますから…」
「駅とか電車内でもらったんだが、喋ったこともねぇ奴によく渡すよな。」
「話したことはなくても、きっと先生のにじみ出る人柄に惹かれたんだと思います。」
「そんなもん、わかるか!?」
首を傾げて考えている土方に、斎藤は鞄から出した箱を差し出した。
「俺からも、受け取っていただけますか?」
「んっ?チョコレートか?」
「はい。」
土方は、不思議そうな表情で箱を受け取る。
「バレンタインってのは、女から渡すもんじゃねぇのか?」
「最近は、男から渡すこともあるようなんです。その場合は逆チョコと言うそうですよ
。」
「ほお、そうなのか。ありがとう、いただくぜ。」
無造作に放置された他のチョコレートとは違い、斎藤が渡した物だけはすぐにラッピン
グを解いていく土方を、斎藤は嬉しそうに見詰めた。
「しかし、お前、女に混ざって買ってきたのか?」
「いえ、それはさすがに気恥ずかしかったので、昨日家で作りました…」
「自分で!?お前、器用だとは思ってたがチョコレートまで作れるのか?」
「レシピを見ながらでしたら。初めてなので、うまくできているかはわかりませんが…
」
「んじゃ、早速食ってみるか。」
土方は、一粒手にとると、ためらいなく口に入れる。
すぐ横では、真剣な顔の斎藤が見守っている。
「…適度な甘さでうまいぞ。」
笑顔で紡がれた土方の言葉に、安堵の表情を浮かべた斎藤は、やっと体の緊張を解く。
その様を横目で見遣りながら、もう一粒を手に取った土方が問う。
「お前も食うか?」
「いえ、2粒しか作れませんでしたので…先生が全部食べてください。」
「なら、俺は何も準備してなかったから、これで許してくれ…」
斎藤の頬に手を添えた土方は、そのまま深く口付けた。
「チョコレート味の俺、っていうのはどうだ?」
唇を離し、ニヤリと笑む土方に真剣な表情の斎藤が詰め寄った。
「…それは、土方さんをいただいてしまっても良いということでしょうか?」
「ちょっ、味がするのは口だけだろ?」
慌てて首を振る赤くなった土方を見詰め、斎藤は少しガッカリした表情を浮かべた。
「…残念です。では、もう一度。もっとしっかりと味わっても良いですか?」
「ああ…」
了