・ 企画小話 ・

□□狂乱の舞□
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目を凝らさなければ闇しか映らない暗がりだとしても。


貴方だけは容易に見つけられる。


刀の妖しい光とはまったく違う、輝きと呼ぶに相応しい光を纏う黒髪が揺れているから。

貴方が舞う度に溢れる血飛沫にその光が重なると、何故か甘い香がしてくるような感覚に陥ってしまう。


随分と神々しいような表現が浮かぶ頭を左右に振って、なんとか正気のバランスを保とうとする。



闘いの最中だというのに、貴方に視線が釘付けになってしまうのはいい事じゃ無い。


姿勢は目茶苦茶だし型なんて在って無いようなものだし、貴方の戦い方は勇ましいというよりも危なっかしいんだ。



でも、絶対に負けない。


目の前の敵を肉骸にした時だけは優雅に見える。

返り血を払う姿は心の無い残酷な鬼のように冷たい目付きだから。


ゾクゾクする。


貴方を見ていると。



どんな姿になるのだろうと。


どんな形相で人を殺して行くのだろうと。



目が離せなくて。ずっと見つめていたくて。


貴方の傍で闘う時が、一番楽しいんです。




「総司!!何をぼさっとしてやがる!!」



夜行性の獣でもあるまいし、こんな暗闇の中でも僕が手を抜いている事がわかってしまう貴方はどんな目をしているのか。


闘いの中にいる貴方は妖しく綺麗で、とても危うい。



明かりの無い闇夜の屋敷の中で、貴方以外の人間を見分けるのは至難の技だ。

こんな時、浅葱色の羽織りは目につくから良かったなんて思う。



「手を抜いてなんかいませんよ。部屋の掃除をしていたんです。」



足元に転がる死体は足場の邪魔になる。


トドメを刺したなら蹴り投げて屋敷の隅へと葬るのが筋だ。


別にそれを非道だとも思わない。



ーー弱い奴に、興味なんて無い。



僕は強い人が好きだ。


だから自分より弱い人間なんていくら死んでも構わない。


弱い奴が幅をきかせた所で見苦しいだけだし、鬱陶しい。




ーー土方さん、僕はね。



ーー弱い奴に興味無いんです。




「馬鹿吐かしてねぇで二階へ行け!この数だ、平助だけじゃ分が悪ィ!」




キィンと刀が擦り合う音と、苛立った貴方の声は耳から滑り込んで来て、ゆったりと自分の体を抜けて行く。


甘い匂いに輝く黒髪。


血飛沫に染まる羽織はもう浅葱色を覆い隠すようだ。




ーーねぇ、土方さん。



ーー何人、斬りました?




僕より多いかな。


貴方は目茶苦茶だから。


考えられない体勢から斬り込んで伐ちのめすから。




ーー貴方は僕より弱い?



ーー貴方は僕より強い?




弱い奴に興味は無いんです。



貴方がもし僕より弱かったら。



貴方を殺しても、いいですか?



絶対に見間違わないのに。



間違えた、って言って。



貴方を殺しちゃっても。




いいですよね?




 
 
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