・長・ 

□■思えば呪う■
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口にした言葉は、本気だった。


後悔なんか、していない。




「もう僕の前に現れないでくれませんか?目障りなんですよ!」




口に出してスッキリしたかと言えばよくわからない。


でも言ってやった、という満足感はあった。




「貴方なんかいなくなればいいのに!」




口をついて出た自分の言葉に周りからは制止の声が飛び交った。

自分を抑えようとする左之さんや新八さんの腕は痛かったけれどそれよりも優越感のが強かった。



自分に暴言を吐かれた目の前の男の目が。


悲痛な痛みを一瞬その瞳に表にしたからだ。




「……わかった。」




すぐにいつもの冷静な顔に戻った土方さんは感情を押し殺した声で静かに呟いた。


でも、自分にはわかる。


この人は今、酷く傷付いた。



僕が、傷付けてやった。



胸を締め付ける痛みに蓋をして、優越感と満足感に浸る。


いつも自信に満ちた顔をして悠然と命令を下す偉そうなあの人を。

あからさまに傷つける事が出来るのは自分だけだという自信があった。



だから傷つけてやった。


あの鼻っ柱を折ってやりたかった。



それが望み通りになった。


しかも自分の要望を受け入れられたという事は、忌ま忌ましいあの姿を見ないで済むんだと言う事。



あぁ、清々した。


満足だ。




黙って広間を出ていく後ろ姿をきつく睨みながら思う。




清々した。


もう、あの人の顔なんて見たくない。









もう、一週間。


土方さんには会っていない。


同じ組織に属していて、どちらも此処しか居場所が無い人間同士なのだからどちらかが脱退しない限り、居なくなる事は出来ない。


ただ会わないようにすれば顔も姿も見ないで済むから居なくなったも同然だ。




だから会っていない。


口にした約束は守ってくれているみたいだ。


あの人の発言に苛々する事も、近藤さんと居る疎ましい姿を目にする事も無くなった。



だから清々してる。


きっと僕はこの一週間、満足気な顔をしている事だろう。




「……沖田さん。」




庭の片隅にある石に腰を下ろし、ぼんやりと空を見上げている自分に声をかけてきた人物がゆっくり近付いてくる。


小石を踏み付けるジャリっという音が少し不快に感じるのは、近付いてくる人物があまり好ましく無いからかもしれない。




「……なに?僕に何か用?」




声だけで誰かなんてわかる。

だったらわざわざその姿を視界に入れる必要なんて無いから空を見つめたまま返事を返す。




「今日の夜の巡察は予定通り一番組と十番組の担当、それと島原周辺も回って来いとの命です。」




自分に報告を告げに来た山崎も好きで自分に近付いているのでは無いと言いたげな不服そうな口調で話す。


お互いに必要が無ければ傍に近寄りたがら無い間柄だから当然だ。

本当ならあの人共々姿を見せないでくれたら有り難いのに、と思う。



山崎が自分に話し掛ける時。


それはあの人の言葉を代わりに言い付けに来る時だから。


漸くあの顔も声も見ないで済んでいる自分にあの人の存在を知らしめる事実をぶつけにくるだけ。




ーー鬱陶しいなぁ……。




山崎の空気からは自分を責めるような重さとピリピリした苛立ちが伝わってくる。


副長信者の彼だからあの人に暴言を吐いた自分に苛立っているんだろうと容易にわかる。




「……ふぅん。話はそれだけ?だったらわかったからもういいよ。」




その姿も空気もなんだか疎ましくて早く消えて欲しかった。


最初からその姿を一瞥もしていないが、不愉快な気持ちをぶつけるように視界に映る空を睨みつけた。



 
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