●夢//長編

□A to Z(中学1年時)
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 「あれ、珍しい所にいるじゃん」

不意に声がした方を振り向くと、亮が購買で買ってきたであろうパンを抱えている姿が見えた。

 「りょ〜お〜っ」
 「宍戸、お前からもこの馬鹿どうにかしろ」
 「は?」

亮は面白そうと察したのか、私の隣に腰掛けて一つ目のパンを開けた。

 「で、どうしたんだよ」
 「鶫、立海の真田に惚れたんだと」





 「はぁぁぁあ?!」

しばしの沈黙から大きい声に一瞬びっくりしたが、横を見るともっとびっくりした顔で亮がパンを落とした。

 「ちょっちょっ…ちょっと待て、お前、お前ら何を言って」
 「二度も言わせるな」
 「いや、だって、おかしい・・・だろ?え?」
 「亮、パン落ちたよ?」

パンを拾おうともしないで、口をパクパクさせているだけなので仕方なく私が拾って砂利を叩く。
そんなに汚れていないけど、食べれるのかなぁなんて考えていたら、突然肩を掴まれた。
その拍子に折角拾ったパンをまた落としてしまった。

 「…亮?」
 「止めとけ」
 「え?」
 「止めとけって、なっ?」

凄く真剣な顔で、少し目を充血させながら、亮は諭すように言葉を続ける。

 「大体なんで立海なんだよ、鶫は氷帝のマネージャーだろ?」
 「それは…そうなんだけど・・・」
 「鶫は俺の事嫌いか?」
 「と、突然だね…勿論好きだよ?」
 「俺は幼稚舎の時からお前がずっと好きだ!!」
 「う、うん…何回も聞いてる」
 「だったら俺と」

「つ」と発した瞬間に景吾の手から何かが、凄い速さで見事に亮の頭を叩いた。
良く見ると乗馬で使われる鞭が握られている。

 「いってぇ!!」
 「俺様の目の前で勝手に告白ごっこしてんじゃねぇよ」
 「ごっこじゃねえ!!!」
 「余計たちが悪い」
 「そんな事言って、お前だって」

ぱぁんっと小気味良い音が再度中庭に響く。

 「ちょっ…いくらなんでもやりすぎじゃ」
 「阿呆はこれぐらいで丁度いいんだよ」
 「亮、大丈夫?」

頭を抱えながら小さい声で「大丈夫」とだけ答えると、涙目で顔を上げて二人は睨み合う。
昔からこの二人の喧嘩は、始まると無言でガンを飛ばしあう。
だから止める事は出来ず、二人が納得行くまで誰も干渉出来ない。
正直面倒な事になったとは思うが、原因は私にもある様なので暫く樺地君と様子を見ることにした。



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