●夢//長編
□A to Z(中学1年時)
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「あぁん?真田?」
「そう、真田くん」
景吾は眉間の皺を更に増やして私を睨む。
「ちょっと待て。何で真田なんだ」
「だって凄くかっこ良かったんだもん・・・」
「俺様のが数億倍かっこいいだろうが」
「ううん」
「・・・答えるの早ぇよ」
「あ、ごめん」
昼休みに景吾(+樺地君)を捕まえて、人気の無い辺りの中庭で相談をしたのには理由があった。
先日行われたテニスの大会で、初めて立海大付属のメンバーを見た時、一気に心を掴まれた。
一年生レギュラーの真田弦一郎君に。
「もうね、もろ私の好みなの」
「ただ古臭ぇだけだろ」
「そこが良いんじゃない!」
「そーかよ」
明らかに不貞腐れた顔をして、景吾は休み時間ごとに中等部から来る樺地君にお茶を入れるように命じた。
「鶫は?」
「飲む!」
「だとよ」
「ウス。」
慣れた手つきでお湯を注ぎ、その間にスコーンを小皿に盛っていく。
その一連の動作にまったく無駄がないのは、思わず見とれてしまう。
「今日のスコーンは何?」
「レーズン…です。」
「わぁ!私大好き!ありがとう樺地君!!」
「・・・ウス。」
「お前、話がずれてるぞ・・・」
「あ。」
カップに綺麗な黄金色の紅茶が注がれ、私の前に用意される。
さすが樺地君、砂糖の数まで完璧だ。
「ありがとう」
「ウス」
「俺様はミルクティーにしろ」
「ウス」
「それで・・・」
スコーンを少し齧り、景吾は背もたれに寄りかかった。
「どうすんだよ」
「どうって・・・真田君の事、色々教えてよ」
「あぁ!?」
景吾が更に不機嫌な顔になった時、ミルクティーがゆっくりと差し出された。
こういうタイミングも完璧である。
「あいつの事なんて、良く知らねぇぞ」
「なんでもいいの。誕生日とか得意技とか」
「だから知らねぇって」
ため息交じりにカップに手を伸ばし、一口飲むと納得したような顔で樺地君に賞賛の言葉を口にした。
まるっきり私の話を無視している。
「景吾、聞いてる?」
「直接会いに行けばいいだろ」
「神奈川、遠いじゃん!」
「だったら車かヘリ出して貰え」
「あんたんのとこと違って、生憎うちに運転手は居ないわよ!」
「じゃあ辞めとけ」
(くっそー、埒が明かない。)
苛々しながらスコーンを食べると美味さで多少解消されるが、目の前でにやけてお茶を啜る景吾の姿でかき消される。
「景吾のケチ」
「ケチで結構」
「…バカ」
「なんとでも言え」
「・・・かーばーじぃ〜!」
「樺地に言っても無駄だ、馬鹿鶫」
「何だとこら!」
「そんなに口が悪ぃと、愛しの真田君に嫌われるぞ?」
「・・・もういい」
少し冷めた紅茶でスコーンを押し流しつつ、私は完全に白旗をあげた。