短編

□終わりまで貴方と居たい
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 チョコボにも様々な性格のものがいる。警戒心が強かったり、大人しかったり。
 だが今回ばかりはおかしいだろう、とエースはため息をついた。


 というのも、ただ今隣を歩いているチョコボがやたらと人に慣れているのか、魔導院の外で放しても逃げていかないのだ。
 現に手綱を持たず自由にしているというのに、飼い犬のようにひょこひょことついて来るのだ。

「いや……飼い馴らしていればこうなるんだろうか」

 だがあくまでも飼い馴らしていたら、だ。このチョコボは飼い馴らしたわけでもなければ、軍用のチョコボでもない。先程捕まえたものなのだ。

「お前、何処かで飼われていたのか?」

 エースはチョコボの嘴を撫で、首元を軽く掻いた。
 チョコボは気持ち良さそうに喉を鳴らし、エースに擦り寄る。やはり何らかの理由で人に慣れているのだろう。
 このまま魔導院に連れて帰るのもいいが如何せん。もしかしたら飼い主が何処かにいるのかもしれない。できれば返しに行きたいが、誰のものなのかわからないため返しにも行けない。
 だがここまで懐かれているのだ。一度保護という形で魔導院に連れていき、暫く飼い主が現れなかったらこちらで世話をする方がいいかもしれない。
 しかし……とエースは思った。
 いくら人に慣れているとはいえ、見たことのない人物にすぐ懐くものだろうか。逸れとも、単純に人に警戒心を抱くことを知らないだけなのだろうか。

「全く……ん?」

 魔導院へ向かいながらチョコボを撫でていたエースは、そのチョコボに奇妙なものを見つけた。
 身体のあちこちに、羽で隠れてよく見えない所に、複数の傷痕があった。すべて昔のものらしく完全に塞がって古傷となっているが、紛れもなく傷痕だった。
 エースは息を呑んで、慌てて全身を調べる。その間チョコボは大人しくしていたが、エースが羽を掻き分ける度擽ったそうに身を震わせていた。




 傷痕は浅いものばかりで、全部で10足らずあった。
 どうして。そうエースは思ったが、チョコボから逸れを聞く術は持ち合わせていない。有ったら欲しいくらいだ。
 そういえば、確かマキナもチョコボが好きだった筈だ。聞けば判るかもしれない。

「……あれ?」

 考え、ふと思った。何でそんなことを知っているのだろう、と。
 マキナがたまにチョコボ牧場に来るのを見たことはある。だが、好きかどうかは本人に聞いていないため知らない筈だ。
 ……誰か教えてくれた人が居た気がする。彼の事を楽しそうに、愛おしそうに話す人が。
 思い出せないのは、恐らく戦中に死んだからなのだろう。死んだから、クリスタルによって忘れ去られてしまったのだ。
 ズキリと胸が痛む。怪我はしていないのに胸が、心が痛みを訴えている。
 この時ばかりは、死を忘れさせてくれるクリスタルが恨みがましく思った。切ない感情を押し殺し、エースは隣で心配そうに見つめてくるチョコボをまた一撫でする。
 そのチョコボには身体以外に、左目尻ギリギリの位置にくっきりとした傷痕が残っていた。逸れをそっとなぞり、魔導院への道を急いだ。

「行こう」
「クエェッ!」






終わりまで貴方と居たい







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