短編

□日陰の主
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現パロ+?な9A






 ジリジリと鳴く蝉の声を聞いていたら、無性に神社へ行きたくなった。





     日陰の主







 自転車で片道10分弱の場所に、多くの木が生えている神社がある。そこはその木々のおかげで、夏は避暑地として密かに人気のスポットとなっていた。といっても、一部の生徒の中でなのだが。
 何故近いのに一部の生徒しか知らないのか。それには理由が一つだけある。

「あぁ?また来たのかよ」
「ナイン」

 神社に着くと、いつも一番目立つ場所に彼がいるのだ。
 彼――ナインは喧嘩っ早いことで有名で、噂によれば、一つ上の野球の先輩を投げたとか。
 そのため、彼に近付く者は殆ど居ないのだ。

「食べる?」
「んあ?あー……貰っとく」

 途中で買ったアイスの一つを彼に渡して、自分は隣に座った。パッケージを開けてアイスを頬張る。甘くて冷たい。

「おいエース、授業はどうしたんだよコラ」
「今日は午前で終了だったよ」
「ふぅん……」

 彼もアイスを頬張りながら、木に止まり鳴く蝉を見た。

 ジリジリ、ジリジリ

 お互い暫く無言でアイスを食べていた。蝉の声と木々のざわめく音だけが、やけに大きく聴こえる。
 トン、と背中にナインが寄り掛かってきた。それを拒否するでもなく受け入れて、自身もまた身を委ねた。
 背中越しに感じる彼の体温。夏のねっとりとした暑さとも違う、心地の良い温かさ。

「……ナインは、さ」
「ん?」

 どうして夏になると、何故いつも此処にいるんだろう。そんな些細な疑問を投げかけてみた。
 彼は短気だから、「んなことどうでもいいだろ」と怒られるかもしれない。そう思ったが、違った。
 少し身じろぎするのを感じたがそれだけで、怒りもせず、フ――……と溜息のように息を吐き出しただけだった。

「ナイン?」
「……なぁエース。日なたってやっぱあちぃよな?」
「え……あぁ」

 ようやく口を開いたが、そんな当たり前の事を聞いてきたため、虚をつかれた。
 何を言っているんだ。そう言おうと後ろを向いたが、バッチリと目が合ってしまい、言えなくなってしまった。
 あの目を知っている。あの目は……

「……ごめん」
「何が」

 踏み込んではいけない所へ入ってしまったようで、思わず謝罪の言葉が出た。

「おら、もう帰れ」
「あぁ……」

 気付けば日は傾き始めていて、幾分か涼しくなっていた。ナインはひらひらと片手を振って帰るのを促す。

「……そうだ。今度、皆を連れて来るよ」

 自転車まで歩いていって、ふと思いついた事を口にした。だって彼は何時だって、此処に一人でいるのだから。
 すると彼は眉間にシワをよせ、あらかさまに嫌そうな顔をした。

「はあ!?おい、んなこと止めろよ。特に真面目委員長は」
「……ぷっ、言えてる」

 そして今日はここで別れた。やっぱり日陰からは出ずに、彼は見送っていた。






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