短編

□ある日の午後の話
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 日差しが暖かい。











 講義中であるにもかかわらず、うとうとと夢の中へ引きずり込まれる感覚に、エースは必死に抗っていた。
 日の当たる窓際にいることに加え教科書の文字の羅列、指揮隊長でもあるクラサメ士官の話。全てが眠くなる要因となっていることで、徐々にエースは意識を飛ばし始めていた。
 非常にまずい。頭では分かっていても、身体と思考がついてきてくれない。

「……エース」
「!!」

 ごく小さな声ながら、隣から名前を呼ばれてついビクリと反応してしまった。だがおかげで睡魔から解放されたため、慌てて黒板の文章を書き写す作業に戻った。
 ちらりと隣を見れば、声の主であるマキナと目が合う。

「疲れてるのか?」
「いや、そうじゃないんだけどさ」

 クラサメがジャックの方を見ている隙に、マキナがエースに問うた。しかし疲れが原因では無いため、エースは首を横に振って答えた。
 いや、もしかしたら一昨日に行われた任務の疲れが、まだ身体に残っているのかもしれない。今回は少々骨が折れた。

「何て言うか……―――」

 理由を言おうとしたら、クラサメがこちらを見たのが見えた。マキナも逸れに気付いて、渋々ながら前を向き、会話は一旦中断することとなった。






「さっきの続きだけど」

 講義が終わり、皆が各々自由な事をしている中、エースはマキナに話しかけた。

「疲れて眠いのとは少し違う感じなんだよな」
「ふうん?」

 クタクタの状態になって泥に沈み込むような睡魔とは違う。まるで海に漂っているような、穏やかで優しい眠り。
 マザーと一緒に居るときの安堵感に酷似しているように感じる。

「居眠りするのはまずいとは思っているけど、同時に『ああ、平和だな』と思うんだ。
 他国と戦争中なのにな」

 ゆったりと流れる時間。たとえどんな時でも訪れる穏やかな瞬間。エースはその瞬間を、確かに享受していた。
 マキナはエースの話に目を丸くしたが、暫く考えるそぶりをしてから、あぁと相槌をうつ。
 サイスに食ってかかるナインに、その彼を窘めるキング。モグと楽しそうに話しをするデュースとシンク。戦争ではまず見ることが出来ないであろう、ありふれた日常的な事。
 マキナにとっては遠い過去の記憶にうっすら残っている程度の感情なのだが、果たしてエースは。0組の皆は。

「もし戦争が終わったなら……」
「ん?」

 ポツリと呟いたマキナの声は、エースに届くことなく、喧騒に紛れて消えていった。

「――やっば!たいちょーが来たよ!」

 ジャックの声だ。扉を見ると、ちょうどクラサメが入ってくるところだった。






ある日の午後の話








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