短編
□二人なら寒くない
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ほくほくのお芋。
割ると中身は黄色くて、食べると仄かに甘い。
「カイトー?何してるんだ?」
「あ、マスター」
秋の肌寒い昼過ぎ。俺とマスターは、何をするでもなく公園を歩いていた。
そして少しマスターが離れている間に、焼き芋の屋台が出ているのを見つけたんだ。
「マスター見てください、焼き芋ですよ」
「おー。もうそんな季節なんだな」
戻ってきたマスターは俺の横に立って、屋台に並べられた焼き芋をまじまじと見つめた。
「兄ちゃん達、お一つどうだい?」
屋台の中で焼き芋を作っているおじさんが、マスターに一個差し出した。出来立てのようで、湯気が出ていて美味しそう。
「お?んじゃあそれ貰おっかな」
「まいどあり」
お金を出して焼き芋を受け取り、暫く歩きながらそれを見ていた。
余り焼き芋を食べる機会は無いから、珍しいのかな?
「よし。ベンチがあるし、座って食べるか」
「はいっ」
公園の中にあるちょっとした広場には、座って休んだりする為のベンチが沢山設置してある。そこに来た俺達は、その中の一つに座って焼き芋を食べることにした。
丁度目の前にイチョウの木があり、綺麗な黄色に染まっている。
でも二つに割った焼き芋の中身は、それよりもずぅっと深い山吹色をしていた。
「おぉっ旨そう」
立ち上る湯気をそのままに、割った焼き芋の片方を頬張った。でも熱かったようで、はふはふと口のなかで熱を逃がしている。
暫くそうしてから咀嚼して、じっくり味を楽しんでいるようだった。
「……ん?」
そんなマスターを見ていたらこっちを向いて、バッチリ目があった。少し色素の薄い瞳が、俺を写しているのが見える。
「…………あ」
そこでやっと、俺は焼き芋を食べているマスターを、零距離に近いところまで近寄って見ていたことに気が付いた。
「わあっ!ご、ごめんなさいマスター!」
寒い筈なのに顔が熱くなってきて、慌てて離れた。
何やってるんだろ、俺。
「あははっ。照れんな照れんな
はい、カイトの分」
笑いながらそう言って、もう片方を俺に渡してくれた。
「あっ……有難うございます」
それを受け取り、マスターと同じように頬張り、咀嚼する。
噛む度にじんわりと仄かな甘みが滲み出てきて、体中に浸透していくように感じた。
「……おいしい」
その言葉を言ったのは俺かマスターか。はたまた二人一緒に言ったのか。
その後は黙々と残りを食べながら、目の前を過ぎていく人の流れを見ていた。
驚く程穏やかな今日。ふと隣を見たら、またマスターと目があった。
「……なんだよ」
「そっちこそなんですか」
そう言葉を交わして、マスターははにかむように笑った。
二人なら寒くない
だって
こんなに胸の奥が暖かいんだから
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