短編
□それでも君を愛してる
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『それでも俺を愛して』のマスター視点
昔、俺には歳の離れた兄がいた。もうこの世にはいないけれど、まぁ、凄く優しい兄だった。
少し前まで、その兄の事でふさぎ込んでいた俺。最近では逸れも克服したつもりで、兄の進んだ道を自分なりに目指して、一人家を出てきた。
そんな俺の傍らには今、メイトがいる。やっぱり心優しい俺思いのボーカロイドだ。
* * * * * * * * * * * *
朝。快い眠りは、朝日の眩しい光によって覚める事になった。
まだ目が慣れない為に顔をしかめると、頭上から声が降ってきた。
「ますたー、」
「んぅ……」
目を開け意識を無理矢理覚醒させると、声の主を見上げた。整った顔立ちをした茶髪の青年、メイトだ。
「……おはようメイト」
そう言ってやれば、メイトはふわりと笑って返してくれた。
「おはよう、マスター」
部屋を出てダイニングへ行くと、メイトが用意してくれた朝食がテーブルに並んでいる。それを食べながら、俺は学校へ行く支度をする。
「マスター。あんまりのんびりしていると、学校に遅れるぞ」
「うん、分かっているよ」
遅刻を心配して、俺に支度を急ぐよう促すメイト。そんな彼は楽譜を取り出し、歌う準備をしていた。
それを見て、俺はあることを思い付いた。
「今日は早く帰れるから、帰ったら何処か行こうか」
「いいのか?」
ソファーに置いていたカバンを渡してくれたメイトが、驚いて目を見開く。よし、びっくりしてるな。
「うん。メイトも練習ばっかりで飽きるだろ?だから、さ」
そう言った途端、メイトが複雑そうな表情をした。
「……有難う、マスター」
でも一瞬の事で、瞬き一つする内に、いつものメイトの表情に戻っていた。
本人はそんな表情をしたつもりはないのだろうけど、俺はそれをバッチリと見てしまった。
「……」
メイトに見送られながらマンションを出て、学校に向かう途中ずっと考えていた。
不服だったのかな………?
外出なんかより、もっと良いものが欲しいって。そんな事を言っているような表情だった。
いつもそうだ。じっと俺を見たまま黙って、何か言いたそうにしている。
言いたいことがあれば言えばいいのに、メイトは肝心な時に口を閉ざしている。
……外出より良いものなんて、あいつにはあったっけ?プレゼントか?それとももっと、物理的ではないものなのか?
考えている内に、目的地が目の前に迫っていた。
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