短編
□それでも俺を愛して
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最近ふと思うようになったことがある。
マスターも俺が此処に来るまでは、一人で寂しい思いをしていたんだろうか?心細くて、苦しい思いをしたんだろうか?
時々マスターは表情を曇らせる。まるで昔の俺の様に。
どうしてそんな顔するんだ?
そう本人に直接聞けばいいのだろうけど、何だか聞いてはいけない気がするので黙っている。そうすると今度は、マスターがそれを目敏く見つけて「どうしたんだ?」って聞いてくる。
……マスターは優しい。優しいからその顔が悲しみで曇ると、ツキンと胸が疼くように痛む。
俺の知らない感情。この感情は、何ていえばいいのだろう。
あぁ、また胸が疼く。これは“俺”だから、“欠陥品”だから感じる痛みなのだろうか?
マスターがこれを知ったら悲しむだろうか。……否。きっと変わらず、俺に優しくしてくれるだろう。それも少し困ったような、何とも形容のしがたい表情をして。
* * * * * * * * * * * *
「ただいまー」
「あ、お帰りマスター」
正午を回る前に、マスターが帰ってきた。
「じゃーメイト、外に行こうか」
「待ってマスター。昼食は食べたのか?」
「売店のおにぎりを3つ」
制服から私服へ。マスターは着替えながら答える。
俺もデフォルトの赤いコートを脱いで、マスターが買ってくれた服を着た。これは凄く気に入っているから、外出するとき以外は着ていない。
「ちゃんと食べないと、動き回る元気が出ないぞ」
「はいはい。分かってますよー」
そんなたわいのない会話をすると、逆に胸がほんわかと温かくなる。そして自然と笑みが零れてしまう。
「なーに笑ってんだよ」
「いや、何でもない」
「嘘つけ。俺と話しているのが心底楽しいって、顔に書いてあるぞ」
そうだ。俺はマスターと話すのが、楽しくてたまらない。だからこそ、場の空気を悪くしてしまうような事は言えない。
時々感じるあの感情に、何時かは気付かれてしまうんだろう。今みたいに。
その時はマスター、笑って受け入れてくれるか?
それでも俺を愛して
何時もと変わらない笑顔で、俺を包んで
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