短編
□それでも俺を愛して
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マスターは今日学校があるから、俺は少し早めに起きてマスターの為に朝食を準備する。
その後マスターの部屋に入って、カーテンを開けながら彼を起こす。すると寝ぼけながら俺を見て、ふにゃりと笑ってこう言うんだ。
「おはようメイト」
「おはよう、マスター」
トーストをかじりながら、マスターはのんびりと支度をする。
俺は俺で、今練習している歌の楽譜を取り出し準備をする。
「マスター。あんまりのんびりしていると学校に遅れるぞ」
「うん、分かっているよ」
ソファーに置かれたカバンをマスターに渡す。
制服を着たマスターはそれを受け取り「ありがとう」と言った。俺は返答をする変わりに、ふっと微笑して見せた。
「今日は早く帰れるから、帰ったら何処か行こうか」
「いいのか?」
「うん。メイトも練習ばっかりで飽きるだろ?だから、さ」
そう言って、またマスターは笑った。
――俺は練習だけでも、マスターの笑顔が見れればそれでいいのに。マスターだって疲れているはずなのに……。
それでもそれは、マスターなりに俺の事を考えてくれている結果。なら俺はその善意を、甘んじて受けよう。
「……有難う、マスター」
* * * * * * * * * * * *
俺は元々“MEIKO”として製造されていた。しかし、何かのミスか途中でエラーが出たのか、性別が逆転してしまった。
普通に生活する分には支障ないが、極度に感情が動くと倒れたり、考えている以上の行動を起こしてしまう。
そんな“欠陥品”の俺は、店にいた頃はいつも一人だった。一人だったから、暗い表情をしていた。
そのせいで買手も一切つかず、店の主人に処分される直前という所でマスターと出会った。
マスターは優しい。欠陥品だと言われた俺を、偏見せず真っ直ぐに見てくれる。
だから俺も、マスターに心を開くことができた。笑う事が出来るようになった。
「それじゃメイト、行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
玄関の前でマスターを見送ったら朝食の後片付けをして、とりあえず朝の仕事は終わる。後は俺の時間だ。
「……マスター」
マスターは現在、マンションで一人暮らしをしている。だからマスターが外出すると、俺はまた一人になる。
……一人は寂しい、悲しい、苦しい、心細い。
でも今度はマスターがいる。マスターが此処に、俺の所に帰ってきてくれる。俺は一人じゃないと、痛感できる。
だからこの時間は、一人でも耐えられる。
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