THE ENDLESS WORLD

□第8夜
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 白コートの者は男で、黒っぽい茶色の髪を短めにそろえている。前髪は邪魔なようで、ピンで止めていた。
 細身のようで、華奢な印象を与える体躯をしている。
 クロス曰く、その人は教団の"室長"という人らしい。
 机の引き出しから紙を――恐らく書類だろう――を出すと、何か書き込んでいく。

「きみ、名前はなんていうんだい?」

 室長が書類から目を離し、翡翠色の瞳をリウに向ける。
 強い光に負けそうな小さな声で、少年は質問に答えた。

「…リウ」
「リウ、ね」

 頷きながら、更に書類に書き込んでいく。

「ファミリーネームは?」
「ストラス」
「――――え」

 聞いた瞬間室長は書く手を止め、驚いた顔で少年を見た。
 ―――何かまずいことでも言ってしまったのだろうか。リウは更に畏縮し、またクロスの後ろに隠れてしまった。

「おいこら」
「ストラス……聞いたことのあるファミリーネームですねぇ」

 室長は首を傾げ、何かを思い出すようにあらぬ方を見た。
 程無くするとあぁ、と思い出したように言いはじめた。

「ストラス……英国にある、貴族の末裔ですね」
「あぁ?」
「知らないのですか?クロス元帥」

 室長は書く手を止めると、クロスと向き合い話しはじめた。

「ストラス家。初代から栄華を誇っていた、貴族の端くれですよ」
「誇っていた、だと?」

 何で過去形なんだ。と、クロスは眉を顰めた。

「何故。そう言われましても、私にも判りませんよ」

 室長は肩を竦めた。だが逸れを聞いたクロスは、益々渋面を作っていく。
 ――そういえばコイツの家……つーか屋敷、は馬鹿みたいにデカかったな。元は、もっと中に人がいたんだろうな。
 室長は更に話を続ける。

「6代目辺りでしょうか………その頃から急速に衰えていったのですよ。
 分家は皆途絶え、今では本家のみがヒッソリと暮らすようになりました」

 チラリと、クロスの足元を見た。
 男の足に隠れるように立つ、リウと名乗る少年。改めて彼を見ると、不自然な箇所が所々あるのが分かる。
 自然ではありえない、灰色の髪。これは寄生型で稀にみる、適合による変色の為にこうなったのだろうから得に気にする必要は無い。
 だが、灰色の瞳は違う。

「文献によるとストラス家の者の殆どは、特異体質を持っているそうです」
「……何に対してだ」
「それは勿論、イノセンスに対してです」

 微かに、クロスの後ろにいるリウが身じろいだ。






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