THE ENDLESS WORLD

□第17夜
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 ゆらゆらと揺れつつ、しかし真っ直ぐに泳いでいく銀色の金魚。そのすぐ後ろを二人はついていっていた。

「この魚、川とかに居るのと変わらないのかな?」

 暫く見ていた時ふと思った疑問を、リウは隣の男を見上げて問うた。男も少年を見たが、目を合わせて間も無くすぐ逸らしてしまった。

「……知るか。俺に聞くな。自分で調べればいいだろ」

 ヴェルダは先程自分に向けられた、好奇心剥き出しのキラキラ輝く目を忘れる為に、前方を行く銀色の金魚をじっと見た。

「そっか……それもそうだね!」

 じゃあ調べてみる!と言うやいなや、リウは金魚の方へ一直線に駆けていき、あちこちを観察し始めた。




 そうだ、いくら物騒な噂が付き纏おうと、アイツは子供なんだ。興味が沸けばあれこれ見聞きして、『知りたい』という欲求を満たす。
 今目の前に居る少年も、間違いなく一人の子供なのだ。
 ヴェルダは言い表せない複雑な気分で、リウと金魚を見ていた。




* * * * * * * * * * * * * * *




「なんだあれは……」
「ヴェルダさん?」

 金魚の後を追いかけはじめて数分後。前方に人影らしきものが見えてきた。

「さっき通ったときいたっけ?」
「いや……」

 突如現れた人影を警戒しながら、少しずつ近付いていく。と、金魚が急に泳ぐスピードを上げて、人影の方へと行ってしまった。

「あ」

 リウは反射的に掴みかけたが、逸れよりも泳ぐスピードが速かった。
 そしてあっという間に人影のもとにたどり着くと、まるで猫が人の足に擦り寄る様にその人の手を、肩を、するりと尾鰭で軽く触れていく。

「……あんた、それの飼い主か」

 ヴェルダが武器に手を軽く置き、いつでも対応出来るようにした。リウもヴェルダの気を感じて、重心を低くして構える。
 攻撃体勢を整える二人に対し、突如現れた謎の人間は構えもせず、ただ突っ立っている。

「飼い主……まぁ確かに、飼っていると言っていいのかな」

 それほど低くはなくよく通る声。フードで顔が隠れているが、声を聞く限り若い男のようだ。
 全身を覆うコートに似たものも着ているため、体型は分からない。

「でもコイツ、食事とかしなくても生きてけるんだぜ?」

 凄いよな。と言いながら、仄かに光る金魚と戯れる青年。それは、さながらファンタジーの世界を直接見ているような、現実味のない光景だった。

「―――でさ、」

 フードの下から、金の瞳がちらりと見えた。その瞬間ぞわり、とリウの背を何かが駆け抜けていく。

「何で“ここ”に居るの?」

 ジワリと光が滲み出るように、瞳が光を帯び始めた。
 その異質さに、ヴェルダが威嚇の為に殺気を放った。だがそれでもやはり、青年は突っ立ったままだった。

「何の事だ」
「いや、オニーサンじゃなくてそこの……」

 そこまで言いかけて、何を考えたのか口を閉ざしてしまった。

「……?」

 その様子にリウは違和感を覚えて、軽く首を傾げた。
 何故か、親近感というのだろうか。それを感じるのだ。仕草も、あの金の瞳も。

「リウ、どうした」
「え?
 ……あ」

 気付くとヴェルダが心配そうに見ていて、その時、緊張していた筈の全身の力が抜けているのに気が付いた。
 何をやってんだろう。そう心中で自分に叱咤し、リウは構え直した。






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