桎梏の悪魔と花嫁
□正体-unveil oneself-
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エイジがスッと目を細めた。蒼色の瞳が、更に光りを帯びる。
「何故、そう思った」
「何故って言われても、服装とかで何となくとしか……
ってまさか、当たりかよ」
反論はないため、恐らく肯定なのだろう。
それにしても、目の前にいるこの男が本当にあの“悪魔”なのだろうか……?
おかしい。悪魔は美女を殺すのではないのか?何で男である自分の眼前にいて『一緒に暮らそう』なんて戯れ言を言っているんだ?
「そう
確かに俺は悪魔、なんて呼ばれているな」
御蔭で、迂闊に街中を歩けなくなってしまった。と、エイジは溜息をつく。
リュウはその言葉の中に、妙な違和感があることに気が付いた。
「呼ばれている、だって?」
「あぁ。俺は“悪魔”と呼ばれているが、悪魔なんかでは無い。あんなのと一緒にされてたまるか」
「……えーと」
つまり、目の前にいるこの男の事を何十年も悪魔と勘違いしていたのだろうか。自分を含め、街の皆が。
「教えてあげよう、リュウ。悪魔はこの世の中で最も卑劣で浅ましい、地獄に住まう種族だ。自分以外の種族を貶め、気に入った女がいれば奴隷や人形として側に置く。
……それが悪魔だ」
リュウはエイジの姿を改めて隅々まで見た。
一見貴族の様な風貌をしたエイジ。首周りは余り主張しない程度に装飾されているが、黒一色の中でよく映えている。
髪に隠れて余り見えない耳には、瞳の色に合わせたサファイアのピアスがされていた。
「………」
リュウは完全に押し黙ってしまったが、更にエイジは話を続ける。
「悪魔は俺達の様に着飾ったりしない。特に宝石類は興味が無い。
……それでも、俺を悪魔だというのか?」
「………」
リュウはまた相手の顔を見、暫くすると深い溜め息をついた。軽く頭を振って“降参”のポーズをとる。
「分かったよ……じゃあそんなに言うんなら、あんたは一体何者なんだ」
「……俺は、」
――刹那、リュウの視界が突然真っ暗になる。
否。真っ暗になったのではなく、“何か黒いもの”が自分を覆ったのだ。
“黒い何か”がエイジの着ていたマントだと気付いた時には、意識が闇へと堕ちていっていた。
意識が途切れる直前に、耳元でエイジの声が聞こえた。そしてその声は、ハッキリとこう言っていた。
「俺は――――――吸血鬼だ」
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