灰色のアイツ
□第6刻
1ページ/1ページ
妖を追って狭い道へ入り、右折、左折を繰り返す。
やがて、ビルに囲まれて隠れるようにひっそりと、ひとつの鳥居が建つ場所に出た。
妖の姿は見えなくなった。恐らくあの鳥居の向こうへと行ってしまったのだろう。
それにしてもと、竜平は鳥居を見上げる。
「こんなとこに鳥居があるなんてな」
さほど大きくはない。けど、表面の風化の加減をみると、かなり昔から此処にあるもののようだった。
先程の妖が見つかるかもしれないと考えながら、竜平は鳥居をくぐった。
刹那
「!」
耳鳴りのような音が響き、思わず耳を両手で塞いだ。辺りが涼やかな神気で満たされていて、それが鼓膜を震わせたのだ。
やがて音も収まり、竜平はホッとしながら、耳を塞いでいた手を降ろす。
「なんてこった………」
どうやら此処一帯には、神の眷属が織り成す特殊な結界が張られているようだ。
「何?お客さん?」
突然、前方から声が聞こえた。
驚いて見ると、そこにいたのはやはり先程の妖だった。
「客って、俺の事?」
「うん。そこにいるあんたのことだよ」
妖は警戒心もなく微笑した。真白の尻尾がゆるやかに揺れる。
改めて妖の姿をまじまじと見た。
青年の姿をしていて、白い髪の間から覗く角だと思っていたものは、獣特有の耳だった。背は自分より少し高いように見える。
着流しの和服は深い群青色で、光の加減によって唐草模様が浮かび上がる。
「どうして客だと思ったんだ?」
「え?だって」
新緑のように鮮やかな緑色の瞳が、驚きで見開かれる。
「あんた俺のこと見えてるし、妖だとわかっててついて来たんだろ?」
「―――――まぁ、確かにそうなんですけどね」
「あは、やっぱり?」
妖は言い当てることが出来てよっぽど嬉しいのか、無邪気に笑った。
対する竜平は、後を追い掛けていたのがばれていた事に落ち込んでいた。無意識に半目になる。
.