灰色のアイツ

□第4刻
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 乗せるのを手伝うと、改めて獣とその主を見た。
 獣の毛は暗めの灰色ーーいや、暗がりに居るからそう見えるのかもしれない。その毛は触ってみると、想像以上に柔らかかった。
 獣の主も、女と思っていたがそれは間違いで、その人は男だった。獣に乗せる時に気付いたが、骨格が女性の逸れと明らかに違い、筋肉質だったのだ。

「世話になったな」

 主を背に乗せ終わり、獣は立ち上がった。竜平もする事が無くなったため、帰るために獣から離れた。

「おう、邪魔して悪かったなー」
「まだ言うか」
「悪かったな。こういうのは変に根に持つんだよ。
 ……じゃ、俺もおさらばするか?」

 踵を返し路地をぬける。チラリと獣に目をやると、彼は無言で尻尾を一振りした。竜平もひらりと手を振り、人混みの中へと紛れていった。





 竜平は部屋の鍵を開け中に入ると、やっと日常が戻ってきたような気がして安堵した。

「ただいま」

 リビングへの扉を開けながらそう呟いた。だがその声は、誰もいない空間に虚しく響く。しかし少年はさして気にせずに、そのまま自分の部屋へと入っていく。
 荷物を机の上に投げ出し、その後自身もベッドに投げ出した。
 しばらくそのまま動かずにいたが、やがてゆっくりと息を吐き出した。

「疲れた………色々」

 このご時世、人外と接触しない日なんてものはないかもしれない。一日に何回も会うことだってあるし、襲われることもまれにある。
 物騒だと思うだろうが、それでもここは、幾らか平和だと思っている。だが今回は、そんな『日常』とは何処か違っているように竜平は感じた。
 これは勘なのだが、また彼等に会う気がするのだ。
 たかが勘ごときと思うかもしれないが、陰陽師の勘はよく当たる。実際に竜平は、それで何度も助かった事がある。

「そういや、名前聞くの忘れてた」

 ベッドから体を起こすと、少年は髪を掻きむしる。
 滅多にはないだろうが、もしものために2人から名前を聞くつもりだった。だがあれこれやっているうちに、そのことが頭からきれいに抜け出ていた。

「ま、いっか。
 さぁて、メシメシぃ〜」

 しかし過ぎ去ってしまったことのため、竜平はその事を軽く流した。立ち上がると部屋を出た。







 その勘が思わぬ形で当たるのだが、竜平はそれを知るのはもう少し先の話。







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