灰色のアイツ

□第3刻
1ページ/1ページ


 思っていたよりも低く、通る声。語調はきついように聴こえるが、その声には戸惑が含まれている。
 殺気なども感じない。でも油断は出来ない。

「それはコッチの台詞だ
一体、何やっているんだよ」

 逆に問い掛けた。すると獣は、顔色を変えずにこう答えた。

「主を休ませられる場所を探していた。なるべく風の当たらない様な場所を」
「へ……主?」
「そうだ」

 獣はチラリと障壁の向こうにいる女性を見た。
 一瞬の沈黙。

「早くこれをどうにかしろ、主に近付くことが出来ない」







「スミマセンデシタ…………」
「何がだ?」

 障壁を解くと獣に平謝りした。だが獣はキョトンとした顔で竜平を見ている。
 何の事だか分からない、といった顔だ。

「何がだって、運ぶの邪魔しちゃった事」

 そう言うとやっと分かったようであぁ、と言った。

「別に気にしてはいない」
「そう………?」

 そう言いつつも感情が全く読めないため、その言葉が真実か分からない。
 障壁で獣と獣の主である女性の間に、壁を作ったというのに。

「………ホントに気にしてないのか?」
「……………」

 無言で竜平を見る。鋭い視線が突き刺さり、少年は居心地の悪そうに身じろいだ。
 やがて獣は、視線を外すとまた女性の方を向き、ポツリとこう言った。

「済まないと思うなら手伝え」
「へ?」

 今度は竜平がキョトンとする番だった。
 獣の目が再度少年をとらえ、ギラリと光る。

「聞こえたのか?運ぶのを手伝えと言っているんだ」
「あ、ハイ………………」

 高飛車な発言に、竜平は思わず返事をした。
 それを聞いた獣はまた、ズルズルと女性を引きずり始める。
 それを見た少年はふと、何気なく思ったことを口にした。

「背中に乗っけないのか?」

 そんなぞんざいな扱いは失礼じゃないかと、そう思って言ったのだが。

「――――――」

 獣の動きがピタリと止まる。
 それから一呼吸分置いて口を開いた。

「……その手があったか」

 成る程、思いつかなかったのか。






.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ