灰色のアイツ
□第8刻
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「あ、黒兄」
目の前の妖――白蓮というらしい――は、新たに現れた妖に気付くと、そちらへと駆けていってしまった。
「また人に迷惑をかけているのか」
「違うよ、アイツが勝手について来ただけ。俺は何にもしてないよ」
白蓮は眉間にシワを寄せ、あからさまに不満げな表情をした。
その妖と瓜二つの妖は、同じく群青色の和装をしていた。だが、髪の色や尻尾の毛は、白蓮と真逆の色合いをしている。
白い毛を持つのが白蓮に対して、この妖は黒い毛を持っているのだ。
黒い妖が竜平を見遣る。白蓮と同じ新緑色の瞳が、竜平を射た。
「それは本当か?」
「えと、確かに勝手について来たんだけど……つーかそこの白いの、客とか言ってなかったか?」
先程の白蓮の言葉を思い出しそのことを聞いてみると、白蓮の表情が一瞬で歓喜に変わる。
「あ、そうそう!そうなんだよ黒兄!客、お客さん!」
白蓮が黒い妖の肩を些か粗く叩く。黒い妖は鬱陶しそうにしているが気にしていないらしく、その手を払おうとはしなかった。
――逸れにしても、くるくるとよく表情が変わる妖だ。自分だったら、あまり相手をしていると疲れてしまいそうだ。
「ね、黒兄。今日は主も来ているし、いいでしょ?」
「客、か……」
ぴくりと耳を動かし、再度竜平を見た。
「………分かった。
ついて来い、人間」
やがてそう言うと、奥へと行ってしまった。
白蓮は竜平に近付き腕を軽く引っ張って、ついていくよう促した。
「おい……っ」
「いいからいいから。
そうだ!俺の名前は白蓮っていうんだ。さっきのは兄貴の黒蓮。お前は何ていうんだ?」
「………」
まるで聞いちゃいない。
仕方がないので、白蓮に話を合わせることにした。
「林 竜平」
「へー、竜平っていうんだ!名前の割にひょろ小さいねー」
「……………………余計なお世話だ」
そういえば、あの人は何処に行ったんだっけ。西?南?
白蓮に半ば引きずられ、どこか遠くを見るように竜平は思った。
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