jasminum
□jasminium
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naming
セブルスは自分のとった素馨に対する行動に後悔していた。
ホグワーツに入学して2ヶ月、だいぶ気温が落ちて肌寒くなる時期だが、火を扱う魔法薬学のクラスは暖かい。そんなほっこりとした気分になれるような空気の中で、素馨のまわりだけ殺伐としていて、それを盗み見てはセブルスは気まずい思いをするのだった。
二人一組で実験するところを誰もペアがいなくて、一人で作業している素馨に、先生の目を盗んでは薬品の材料を--死んだ芋虫だったりフグの目玉だったり--を投げつけて楽しんでいるグループがいた。素馨も避ければいいのに、飛んでくるものなど気にした素振りもせず、黙々と作業を続ける。
素馨が不意に席を立ち、教壇の近くの材料置き場へ足を運んだ。素馨は僅かに逡巡すると、乾燥したヒレハリソウを丁寧に測り、薬包紙に載せて自分の席へ戻ろうとする。
すると、スリザリンの生徒が素馨の進行方向に不意に足を突き出した。両手で材料を持ち、それを注視していた素馨は見事にその足に引っかかり、転倒し、乾燥したヒレハリソウは通路にブチまけられた。
ぶふーーっ!
あははははは
くっくっくっ、
足をかけた生徒のグループが笑い出すと、まわりの生徒も何があったのか、と首を伸ばし、転んでいる素馨を見て吹き出した。
「静まりなさい!まだ実験中ですよ、何があったんです?」
スラグホーン教授が急に笑い出したクラスに驚き、注意をする。
「せんせーい、キトウが材料を無駄にしています、」
当の本人は、感情の伺えない表情で、散らばった薬草を拾い集めている。しかし、ヒレハリソウは刻んでから天日に干し、乾燥させたもので、細かい欠片になっているため、その作業が効率的とは言えなかった。
「ミス・キトウ、またですか?気をつけて下さい。そこの箒を使っていいので、早く片して作業に戻りなさい。」
スラグホーンはいつもドシを踏み、クラスの纏まりを乱す素馨に呆れた声で言った。
「おい、セブルス、ここは時計回りでかき混ぜていいのか?」
クスクスと笑い声の中、箒で掃除をする素馨を見ていたセブルスは同寮でペアのルヴルに声をかけられて慌てて振り向いた。
「、ああ、時計回りで大丈夫だ。」
「キトウを見てたのか?全く、ルーファスたちも放っておけば良いものを。」
「まったくだ。」
セブルスは材料を刻み終えると鍋に投じた。
「おい、今度はポッターたちがなんか企んでるようだぞ。」
ルヴルの声にスネイプはグリフィンドールのグループを見ると、作業を終えたジェームズとシリウスが頭を付き合わせて、机の下から何かを取り出していた。
セブルスは嫌な予感がして今度は素馨を見る。
素馨は掃除を終え、最後の工程である、リュウキンカを加え鍋をかき混ぜていた。
その時、何が飛んできて、素馨の鍋の中に落ちた。素馨は初めて表情を歪めて、鍋から一歩引いた。次の瞬間、爆発音が教室に響いた。
「まったく、こんな事は前代未聞です!スリザリン30点減点!早く、医務室へ行ってきなさい。」
ジェームズとシリウスが素馨の鍋に投げ入れたドクター・フィリバスターの長々花火が爆発し、完成間近の薬品をもろに被った素馨は右腕と左頬が焼け爛れていた。
減点を受けて完全に白い目で素馨を見るスリザリン生と、笑いを抑えることが出来ないグリフィンドール生にスラグホーンは大量の宿題を出すと、その日の授業は終わりとなった。
とうとう、その日の授業に素馨が戻ることはなかった。
放課後、セブルスは課題を片付けるべく図書室へ向かう。誰もいない廊下にセブルスの足音だけが響いた。しかし、その道すがら、最も会いたくない奴らに遭遇した。
「おーーう、これは、これは、泣き味噌スニベリー、じゃないか。」
「愛しのメリーちゃんはどうしたんだい?」
シリウスとジェームズはニタニタと笑いながら、セブルスに近づく。その少し離れた後ろには、へつらうような笑みを浮かべるピーター・ペティグリューと複雑な顔をしたリーマス・ルーピンがいた。
「…メリーちゃん?なんの話だ?」
こいつらをまともに取り合ってはいけないと知りながら、セブルスはつい返事をしてしまった。
「ヘリッシュ・ナイトメア(hellish nightmare)のキトウのことさ!メリーとスニベリー、韻がいいだろ?」
「地獄のような悪夢?フン、それはお前たちにこそお似合いだろうよ。」
「なんだと!」
「それは聞き逃せないね、」
「自分たちが言われたら腹を立てることを、キトウには言う訳か。腐っているな。」
セブルスは淡々と言った。しかし、図星をつかれたのが腹立たしかったのか、シリウスとジェームズが攻撃してきた。
「エクスペリアームス!」
「ディフィンド、裂けよ!」
一人なら、セブルスも防げただろうが、二人いっぺんに呪文を唱えたので避けきれず、杖が飛び、右腕と右脚の一部が裂け、血が流れた。
「ハン、ざまあみろ!」
「医務室にいるメリーちゃんによろしくね。」
裂傷を押さえ、痛みに声を押し殺すセブルスを見ると満足したようで、シリウスたちはその場を後にした。途中、転がっているセブルスの杖をさらに遠くに蹴飛ばしながら。
「っ、くそ、」
痛む足を引き摺り、杖を拾うと医務室を目指し、日が落ちて暗い廊下を歩いた。途中、通り過ごした大広間からは楽しそうな生徒の賑わいが漏れ聞こえた。セブルスは歯を食いしばると、手摺に寄り掛かりながら階段を上った。