jasminum

□jasminium
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sorting


「おまえ、こんなところで何をしているんだ?」

窓に寄りかかり、瞑想するが如く意識を飛ばしていたら、唐突に声をかけられた。
因みに声をかけた方としては、随分長いこと通路に立っている素馨のことを観察していたので唐突に声をかけたつもりは毛頭ない。

「…別に。」

「は?変なやつだな。名前は?」

背も高く、顔も整っている。
髪の色は日本人である素馨のものと同じだが、彫りの深さは比べ物にならない。
そんな男子生徒が素馨を見下ろす形で立っていた。

「ソケイ、」

名乗る時に初めて顔を上げた素馨を見た男子生徒は息を呑んだ。

「お前、その目、闇の陣営か?」

闇の陣営?そんなものに覚えはないが、もし仮にそうだったとしたら、こんなにストレートに聞くのはあまりにも浅はかで愚直ではないだろうか。

「さあ?」

素馨は当たり障りのない答えを返したつもりだったが、男子生徒はお気に召さなかったらしい。
素馨の寄りかかる窓ガラスを、思い切り殴ると顔を近づけ威嚇した。

「俺はな、闇に関わるものが反吐が出るほど嫌いなんだ。特にお前は俺が知ってる闇と同じ臭いがする。」

「なら、私に関わらなければいい。」

そもそも絡んできたのは男子生徒であって素馨ではない。

「スニベルスといい、お前といい目障りなんだよ。」

いい加減彼の幼さに付き合うのもうんざりし始めたころ、もう一つの声がした。

「おい、シリウス!こんなところにいたのか。来いよ、ピーター・ペティグリューのヒキガエルが黄色い煙を吐くんだ!」

シリウス、と呼ばれた男子生徒は舌打ちをすると、呼びに来た別の生徒の後についていった。
去り際に凄い形相で素馨を睨みつけるのも忘れずに。

もう、日も落ちる頃で明るい車内からは外を伺うことは不可能だ。
完全に鏡と化した窓ガラスを覗き込む。

「その目」

シリウスはそう言っていた。
映された自身の目を人差し指でなぞる。
片方だけ血が混じったような赤褐色をしている。
青緑虹彩の一種とされ、強い力を持つ証とも言われた。

ヴォルデモートの存在をしらない素馨は、やはり強い力は闇と見なされるのか、と呟き、大嫌いな瞳を見たくなくて窓に背を向ける。


やるせなくて
やるせなくて、どうしようもなかった。


ほどなくして駅に到着し、雨の中濡れそぼりながらボートに乗り城へ向かう。
名前も知らない生徒と乗り合わせ、お互い始終無言を貫いた。

城に入ると玄関ホールで大人の魔女が迎えてくれた。
そして、寒さに震える素馨たち新入生に向けて杖を一振りすると、滴る雫が一瞬で消え、暖かくなった。
素馨は素直に驚いた。出迎えた魔女が相当な魔力を有していることは一目見て感じ取ったが、その魔力が杖を通して発されると服を乾かすという意味を持った魔法に転換されることに。
素馨の学んできたものはこんなに便利なものではない。
胸中に蠢くやるせなさに学びという希望が見えてきた気がした。

雄大な大広間に通され、組み分け帽子が歌い出す。

勇気のグリフィンドール
誠実のハッフルパフ
勤勉のレイブンクロー
奸智のスリザリン

スリザリンだけ賛辞とは思えず、更にその生徒が座るテーブルから異質な空気を感じ取り、シリウスの言う闇の陣営に思いを馳せる。
陰陽道に黒と白があるように、この魔法界にも根強い闇が存在するようだ。
どこの世界も力と力がぶつかり合う真理を見せつけられた気がした。

「ブラック・シリウス」

電車の中で絡んできたあの少年はグリフィンドールに選ばれた。

「エバンス・リリー」

ブラックが呼ばれてまもなく、知ってる名前がまた呼ばれた。
緊張した面持ちで帽子を被る彼女はグリフィンドールに選ばれ、少し離れたところからため息が聞こえた。
セブルス・スネイプだ。
それだけで複雑な背景が伺えて素馨は僅かに眉を顰めた。
深く知り合った訳ではないが、エネルギーが溢れんばかりのシリウス・ブラックとは対極に位置するような彼だ、彼女と同じ寮になることはないだろう。
11歳というまだ幼い年齢で将来が運命づけられてしまうのは重過ぎるように思えた。もちろん素馨自身も11歳なのだが。

「キトウ・ソケイ」

自分の名が呼ばれ、壇上に上がる。聞き慣れない名前に、生徒たちが少しざわつく。

『君は随分と落ち着いているな。』

帽子の中から声が聞こえ、なぜ組み分けされている生徒が時々うなづいたりしているのかが分かった。帽子はそんな素馨の思考を無視して話し続ける。

『君をスリザリンに組み分けしようと思う。
君はね、自分の価値を見誤っている。
スリザリンで自分の価値を見つめ直すんだ。
忘れるな、君は多くの命を救える。未来を変える力を持っている。
頑張りなさい。』

そういうと、帽子はスリザリン、と囁くように述べた。

素馨は分からなかった。
分からないなりに腹が立った。
帽子如きに何が分かるのか、と。

腹を立てたせいで余計に帽子の言ったことが頭から離れず、本当の意味が分かるまで素馨は何度も頭を悩ますことになる。

そして、セブルス・スネイプがスリザリンに組み分けされ、組み分けの儀式は終了した。
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