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在りし日の越後屋
 (reflection原作編 血塗られた迷宮後)

人が疎らになった大講堂で、安原は手元のプリントを数えていた。
厳かな古城と廃れた荒城の狭間にいるような講堂。
頭上を見上げれば、細かい飾りが施してあり目を奪われるが、壁の隅に目を向ければ、薄汚れたヒビが目立つ。
しかし、この中途半端な威厳を持つ建物を安原は嫌いでなかった。

天井の明かり取りから淡く差し込む陽光に照らされながら、安原が顔を上げた時には、講堂に誰もいなかった。

蝉の鳴き声と賑やかな人の話し声が、静かな講堂にやんわりと届く。

「全く、板倉教授も人使いが荒いんですから。」

安原はクラス全員のレポートを茶封筒にしまうと、腕時計を確認した。

「昼休みがもう半分も終わってしまってるじゃないですか。」

安原は茶封筒に「統計学A 期末レポート 129名」と手持ちの油性ペンで書き込んだ。
そして、それを自身のカバンにそれをしまい、講堂をあとにした。

蝉の鳴き声や人の楽しそうな話し声が急にクリアになる。
太陽が照り付ける明るい屋外に目のなれない安原は目を閉じた。

「あっつ、」

安原が大学生になって、そろそろ3ヶ月が経とうとしていた。
梅雨も終盤で、そろそろ終わりの見えてきた春学期に学生たちが賑わい始めている。

「あっれー?安原くん!
ご飯食べたー?
まだなら一緒にどう?」

自分で言うのもなんだが、ソツなく人間関係をこなす自分はキャンパス内を歩いていても良く声をかけられる。
しかし、今日は申し訳ないが、誘いを断りざるを得ない。
なぜなら、

「せっかくだけど、今から板倉教授の研究室へ行かないといけないんだ。
ホラ、先ほど皆さんが提出された大切なレポートを届ける任務を承っておりますので、」

茶化した返答に、声をかけてくれたグループがわいた。

「あはははー、安原くんってほんとに面白いねー、」

「お疲れー、くれぐれも私たちの努力の結晶を無事に板倉教授に届けてくれたまえ!」

口々に軽口を返してくれる同窓を安原も嫌いではない。

「不肖安原にお任せあれ、」

笑いながら彼らと別れると、安原は少し温度の低い構内に再び足を踏み入れる。
エレベーターに足を向けるが、はたと止まった。
板倉教授の研究室は5階、階段で行くか。
最近、調査もなくて運動不足なので、それを気持ち程度だが解消したくなった。

安原が、同窓たちよりも気に入っている連中、渋谷やリン、滝川、松崎、原、谷山そして、リオと最近あまり会っていなかった。
谷山さん曰く、渋谷さんが旅行ばかりに精を出し、依頼を全然受けないのだとか。
調査が入れば、自分にもお呼びがかかるだろうことは予測できた。
しかし、調査がなければ、なかなか行く機会も減ってくる。
この前のゴールデンウィーク以来すっかりご無沙汰していた。
しかも、この時分、リオも学校があるからSPRには来ないだろうし。

調査もない、お気に入りの後輩もいない、のでは、どうも足が遠のく。

さらに、今は自分自身も期末に近づき、課題やらテストやらに時間を取られる。

それでも、今日は久しぶりに彼らに会いに行ってみようか、と安原は思い立つ。
アポはないが、あの事務所なら誰かしらいるはずだ。
思い立ったが吉日、せっかく彼らのことを思い出したのも何かの縁だ。

SPRに意識を飛ばしつつも、しっかり階段を登りきった安原は、一番手前のドアをノックした。

「どーぞー」

間延びした返事が返ってくる。

「失礼します、統計学のレポートを持って参りました。」

「おおー、わりーわりー
ありがとさん。」

板倉は悪いとも思ってもいない笑顔で、安原から茶封筒を受け取った。

「いいえ、板倉教授のお役に立てて僕も嬉しいです。」

しかし、安原もそんな板倉に負けず劣らず、心にもないことを笑顔で述べる。

「…わかったよ、昼メシ奢るから、
安原、次の授業は?」

「ありません、午後は4限に憲法のクラスがあるだけです。」

いつも理由をつけては安原をこき使っている自覚が少しはあったらしい、板倉は苦笑している。

「なら、まだ時間あるな、
ちょっと待っててくれ、これ終わらしたら、外へ食いに行こう、」

その辺の本を適当に見ていていいから、と所狭しと壁一面に並べられた本を指差し、板倉はデスクに戻り、ペンをとった。

安原はその言葉に甘えて、本棚を物色するが、数学科の研究者の本棚は大衆向け本の内容からかけ離れ過ぎており、ちょっとした読書からは程遠い。
板倉の統計学はとっているものの、文系である自分にはどれもすんなり理解できるものではなかった。

それでも、本の背表紙をなぞりなから、棚を眺めていると、少し低い棚の上に倒れている写真立てを見つけた。

安原は何気なくそれを手にとり、裏返すと写真を見た。

「こ、れは………」






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