短編

□君に霧中
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「ねぇ、」

「何だい?」

「愛してるわ。」

「ああ、僕もさ。」


 嗚呼、幸せ。
 幸せで幸せで死んでしまいそうなほど幸せ。
 私が愛する人が、私を愛している。
 これがどれ程の奇跡かって言えば、言葉じゃ追い付かない程のものだと思うの。
 出会えた奇跡と恋に落ちた奇跡とそれが重なった奇跡。
 こんなに凄いことなのに、何で軽視する人がいるのかしら。
 恋愛は、この世で1番の奇跡。


「ねぇ、貴方を抱きしめても良い?」

「どうしたんだい、急に。」

「貴方に触れていたいの。」

「嗚呼どういうことだろうね!僕も今、全く同じことを考えていたよ!」

「それはとても素敵ね!」


 大きく手を広げる彼の胸に飛び込む。
 暖かくて大きくて広い、彼の胸の中。
 それから少し離れて、手を繋いで。


「ふふ、素敵ね。この世界って。」

「そうだね、君がいるから素晴らしい。」

「あら嬉しい。」

「本音だよ?」

「分かってるわよ。」


 ふふふ、あはは!
 そんな笑い声が響く夢のような世界。
 辺りの虹色が花を撒き散らす私たちを沢山の大きなハートで包み込む。
 それから世界はピンクになって、私たちまで染めてゆく。


「ねえ、ずっと一緒よね?」

「当たり前じゃないか。」


 そうしてにこりと笑う彼の笑顔…見えない。
 後ろから酷く輝くまばゆい光が差すから、彼の顔が全く見えない。
 今まで見ていた顔すらも思い出せない程にくらりと目眩を起こしてしまう。
 その時、その私の背中を受け止めてくれたのもやはり、彼。
 顔が見えず、更には思い出せない彼が。


「大丈夫かい?」

「ええ。」


 それでも何故だか彼を愛していることは忘れない。
 嗚呼、やっぱり恋って素敵。
 きっと私は彼の外見が好きなんじゃなくて、性格が、魂が、好きなの。
 大好き、彼が。


「ねぇ、」

「何だい?」


 つい先程繰り返したばかりな気がするやり取りをもう一度。
 だけど続く言葉は違う。


「……キスして?」

「…構わないよ。」


 まだぼやける彼の顔が近付いてくる。
 片手は私の背中に手を回し、片手は私の顎を持ち上げる。
 ぐいっと引き寄せられ、顔がもう目の前で。



 と、そこで目が覚めた。


(幸せはいつも霧散する。)


110415

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