短編

□私の恋は金属製
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「少し散歩に行って参ります。」
「日が落ちるまでに帰りなさいよ。」
「分かっております。」

 正直言って、成人した娘を今だにそんな早くに帰れなんてどうかしてるとは思います。
 過保護?
 躾?
 それはきっと両方違います。
 両親は私を自分達の思い通りにいさせたいのです。
 夜になれば厄介な人間が増え、いらぬ遊びを覚え反抗される前に、との考えでしょう。
 私はそれを分かっていて両親に従います。だって私はそれで良いと思ってたから。

「それって、つまり逃げてますよね。」
「え…?」

 “イイコ”でいた私は、まさか偶然鉢合わせた3つ年上の庭師の彼にそんなふうに戒められるとは思いませんでした。
 屋敷内で1番年が近く仲が良いとは言え、自分の思いを何故彼に打ち明けてしまったのでしょう。
 ─きっともうすぐ嫁ぐ事もあり、気が緩んでいたからでしょうか。

「お嬢様は逃げてるんですよ、全てから。」

 いつもみたいな明るい笑顔は見せてくれず、冷淡な眼差しを向けられた。
 彼の漆黒の少し長い前髪から覗く黒い瞳からは、哀切の感情が感じられた。
 いつもと違うそんな彼に戸惑い、落ち着かなくて、彼と同じ色をした長い髪の毛を手に絡ませ手持ち無沙汰を解消する。

「逃げてなんか無いわ。私は自ら選んで生きているもの。」
「じゃあ何でそんな悲しい顔をしてるんですか?」
「悲しい…顔?」

 私は今、誰かに分かってしまう程悲しい顔をしているの?
 いいえ、私は今必死でいつも通りの笑顔を浮かべていたわ。
 だって笑っていれば何も聞かれない。
 笑ってさえいれば、可愛がって貰える。
 だから私は笑顔が得意、なのに、何故?

「隠しても分かりますよ。」

 その時、ふわりと辺りに春らしい暖かい風が吹きました。
 彼がせっかく掃き集めた木の葉が舞い散りだし、彼は慌てて手にしている熊手をせかせかと動かし出しました。

「何で、分かるの?」

 ただの、純粋な疑問でした。
 何か求める答えがあった訳でも、どうしても知らなくてはいけないことでも、ないのです。

「…僕はずっと、貴女を見ていましたから。幼い頃から、ずっと近くで。」

 にこりと笑みを浮かべる彼。
そのあとそっと目をふせ、もう一度慌てて笑みを繕うから分かってしまう。
 これは、彼の癖。

「…今、少しだけ嘘を付くときの顔をしたわ。何か隠したでしょう?」
「……そうですね。でも、言ってはいけないことなので。」
「私に、隠し事?」
「隠し事じゃないです。言っても、困らせるだけですし…ほら、お散歩に行かれるのでしょう?今日は暖かいので川辺に行かれてはどうでしょうか。」
「焦ると饒舌になるのも貴方の癖ね。……言ってくれなきゃ私はここを動きません。」

 着物から伸びる手で、彼の腕をぎゅっと掴み、睨みつけるように高い位置にある瞳を見る。
 その2つの黒い丸は私を見て少し反らして、ため息の後にもう一度私に戻って来ました。

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