短編

□きみが泣いてる理由になりたい
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 私の彼氏の聖也くんは意地悪だ。隠しているつもりらしいけれど私の泣き顔が好きみたい。だから私はいつも泣いてあげる。それにしても他の人達は何も分かってない。幼馴染ですら聖也くんの方がヤバい人だなんて。まあ、私以外が聖也くんを好きになっても困るから、それはそのままで…むしろその方が良いのだけれど。

「だから何度も言ってるだろ?僕以外の人間と話すなって。」
「…うん、ごめんね。」
「僕以外の誰かが瑠衣子を泣かすなんて許せないんだよ。ただでさえ瑠衣子は涙腺が弱いんだ、お互いのためにも関わらない方が良い。」
「そうだよね、ごめんね。」
「分かれば良いんだよ。」

 聖也くんに好かれるために泣き続けもう随分と緩くなってしまった涙腺からぽろぽろと涙は落ちていく。そんな私の様子にうっとりとする聖也くんは本当に可愛いのね。その涙の一粒を掬い上げながら聖也くんが私の顔を覗き込む。

「ところで、瑠衣子はあいつと何で…何を話してたんだい?」
「…なんでも、ないの。」
「何でもないのに泣くことは、流石の瑠衣子でもないだろう?」
「言えない…聖也くんには。」
「は?僕には?」

 口調が荒くなったその時が、私の愛する聖也くんの好きなところ。怒り狂うのはいつもの聖也くんの証拠。きっと心が泣いているのね。私はその怒りも悲しみも全て受け入れるわ。

「何で?」

 嗚呼なんて可愛い人。とても幼稚で自分の思い通りにならないと力任せ。まあ、そうしたのは私。最初は怒れば良い、次いで叩けば良い殴れば良いと助長させた結果。今は首を絞めてくれている。

「だ…って、…今より…もっと…怒る、でしょ?」

 呼吸が上手くいかないと声って出辛くなるのね。貴方は私の全てを知りたがる。でも、あえて教えてあげない。そうすれば聖也くんは怒ってくれる。暴力という形で愛を伝えてくれる。だから、わざと私は隠し事をする。

「瑠衣子、僕は君を愛してるよ。誰よりも。どうしようもないほど。」
「うん、実感…し…てる。」
「だから、もう、僕に話してくれない口なんていらない。いらないいらないいらない!!」
「…!やっ、」

 キスではなく、思い切り喰わんばかりに口を開けて私の口に近付いてきたから思い切り突き飛ばす。まだ、早い。それに、私が求めるのはそうじゃないの。
 そこで我に返った聖也くんは土下座をする。そんなことしなくて良いのに。でも、そんな聖也くんも可愛いのね。

「ご、ごめんね。苦しかったよね、痛かったよね。ごめんね、ごめんね。」

 許すも何も苦しいのも痛いのも私が求めていることなのよ。とは、一生教えてあげない。でも、唇を噛み切られたら困るから一応許すことになるのかな。でもその行為自体は良い傾向。私の夢まであと少しかもしれない。

「…良いよ、良いの。聖也くんは私のことをそれだけ好きでいてくれてるんだって思ったから。」
「やっぱり瑠衣子は優しいね。」
「許さないと言ったら聖也くんなら自分の舌を切り落としそうなんだもの。」

 そうなっては困る。私の夢は聖也くんがいなくてはならないのだから。

「でも、瑠衣子も酷いんだよ?僕に何であんな男と話していたのか言ってくれないんだから。」
「…それは、」
「どうして?瑠衣子は僕のこと嫌いになった?瑠衣子の泣き顔がみたくてつい意地悪しちゃうところ?それともやっぱり直ぐにキレちゃうからかな。ごめんね、頑張って治すから。瑠衣子のことになるとつい本気になっちゃうから…なるべく冷静でいられるように努力するから。…それとも、あの男が好きなのかい?」
「それはない。私が好きなのは、聖也くんだけ…。」
「なら、何で…?」

 正座のままの聖也くんに向き合って、同じように正座する。そろそろ本当のことを話してあげないと、先に聖也くんが壊れちゃうものね。

「……あのね、あの人に…私の幼馴染なんだけど……聖也くんとは別れた方が良いって言われたの。」
「は?」
「告白された、とかじゃなくて…アイツは何かヤバいから離れた方が良いって言われたの。」

 そしてまたわざと泣いてみせる。そうすればほら、聖也くんの気持ちは落ち着いたでしょう?

「なんだ、そんなことか。そんなことで僕は怒ったりしないさ。」
「…良かった。ごめんなさい。」
「謝ることじゃない。君は否定してくれたんだろう?なら問題ないさ。」

 私の愛する聖也くんの心が泣く理由はいつだって私のこと。だから私は彼をわざと怒らせたり悲しませることをする。その暴力で私を殺してくれるその日まで。
 いっそのこと閉じ込めてくれたりすれば良いけれどまだ理性が残っているようだから早く消しちゃわないと。じゃなくちゃ私を殺してもらえない。もっと私を愛して。私も同じように愛すから。

「不器用な僕だけど、これからも愛していてね、瑠衣子。」
「当たり前じゃない、愛する聖也くん。」

 私の夢は愛する人に殺されて死ぬこと。その夢のためにも、私はきっと死ぬその日まで涙を流し続けるの。

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