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□ドアを開けて
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何度来ても辛気臭い場所。暗くて、寒くて、煩い。
解ってる筈なのに、私はまたここに来てしまった。
冷たい階段に座って、深海の底にいる魚みたいに、じっと息を潜めて、ドアの向こう側のくぐもった声を聞いてる。



『ドアを開けて』



「アリス」

ドアと階段しかない広場を抜けて、一番底にあるただの扉を開くと、クローバーの塔の廊下が広がっていた。
廊下には人が行き来しているから、その気配に私はいつもほっとする。
…今日も私は、帰ってきた。
何処でもない、ここに。

廊下の壁に背を預けて煙草を吸っていたグレイは、私に気づいてすぐに煙を吐きながら煙草を揉み消した。
彼の手にある灰皿の中の煙草の本数が、ひと箱分くらいあるのを知っている。
最近、彼がたまにこうして待っていてくれている事がある。

「遅かったな」
「…そう?」
「ああ、待った」

約束していたわけでもないのに、貴重な休憩を裂いてまでこんな廊下に立ち尽くしていたグレイ。
…もし私が帰らなかったら、彼はどうしただろう。
休憩を全て棒に振ってでも廊下に居続けてくれたかもしれない。
グレイは優しい人だから…
そう思うだけで、胸がとてもゾクゾクした。
彼が傷つく姿に救われてるなんて、私は本当に…性格が悪い。
どうかしている。


 
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