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□昼がおわる
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城の天井に張られた窓を見上げる。
さっきまで夕方だったはずの窓の外は、今さわやかな青空を覗かせている。
バラバラに散らばった時間。この世界のルール。
今でも本当に不思議だ。


『昼がおわる』
 


ノックをして部屋に入ると、二人の男が無言でデスクに張り付いていた。
外のせいせいした空気と反比例するかのように、この部屋の空気は重い。
それというのも、この城の主であるナイトメアが噴水のように血を吐いたので、延びに延びていた書類がまた延びて貯まり、とうとう私の身長を追い越してしまった。
ナイトメアが起き上がれるようになってから5時間帯程、この光景は変わらない。

「…」

二人の体調を心配しながらも、コーヒーをグレイの机の片隅に置いた。彼の机上が片付いたのを私は未だかつて見たことがない。今もその場所以外にカップを置くスペースが無かった。

「ああ…ありがとう」

彼にしては珍しく、ひどく疲れた声でカップを受け取った。
それもそのはず…ナイトメアが出て来る5時間帯前から、グレイはここに座りっぱなしなのだ。
書類仕事だけでも通算10時間帯…私はグレイの集中力を心底尊敬する。

「…少しは休んだ方がいいんじゃない?」

一息ついてもらおうと持ってきたはずのコーヒーを口に運ぶ間も、グレイは書類から目を離さないしペンを走らせる手を休めることもしない。
私のこんな甘言にも、返事はだいたい決まっている。
 

「もう少しで終わるから、大丈夫だ」
「…そう」

呆れ半分、諦め半分。
私はもう何も言う気が起きない。
いつもはうるさいぐらいしゃべるナイトメアも、今は集中してるらしく話しかけられない。ペンが机を叩く音が虚しく響くのみだ。

「…」

どうしよう。
私にも仕事があると言えばあるのだが、今この二人の間に割って入ると、かえって連携を乱してしまいそうで踏み込めない。
書類を室外に運ぶのも今の私の仕事だけど、今しがた行ってきたばかりなのだ。
あーうーどうしよう…

「…アリス」
「何?ナイトメア」
「書類を待つのは暇だろう?どこかに遊びに行ってきなさい」

ナイトメアのその言葉に私はハッとし、ぐわっと一気に熱くなった顔を慌てて伏せた。
そうだった…
ナイトメアは心の声を聞く事が出来るのだ。
横でただ黙って暇にしているだけでも、彼にとっては十分過ぎるぐらい邪魔になる。

「ご、ごめん…っ!」
「おい、アリ…」

バタン。

慌てて二人の部屋を後にし、火照った頬を両手でぺちぺち叩いた。
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