秘密請負人

□―喪失と焦燥―
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菅野亜矢(すがのあや)は、休み時間、親友――香に電話をかけていた。

しかし何コール鳴らしても、香は電話にでない。

今は三時間目の休み時間だが、何の連絡もなしに学校を休んだ親友を心配して、亜矢は朝から何度も電話をかけていた。

「ねぇ、順くんには香から連絡きてない?」

「いや、きてないよ。」

ちょうど通りかかった順に聞いてみるも、期待した返答は得られない。


「菅野さんに連絡がきてないんなら、俺のところにはこないよ。」


表情が乏しい順が言うと素っ気ないようにも聞こえるが、表面に現れないだけで、順も心配しているのだと亜矢はすでに知っていた。

その上、順が香に好意を抱いていることも亜矢は知っているので、連絡がつかないことを余計にもどかしく感じる。


「い、家で倒れてたりしないよね…」

一人暮らしの香には、具合が悪くなって意識を失ったりなどしたら、気づく者がいない。

そう考えて、亜矢はさらに不安を掻き立てられた。


「放課後までに連絡がつかなかったら、早坂さんの家にいってみよう。…俺も心配だ。」


マナーモードにしたまま、ケータイを見ていない可能性もある。

それならばいい。
何もないのならば。

しかし、亜矢と順は言いようのない嫌な雰囲気を感じていた。









「早坂さんが休み?」

「そうなんです。日高先生のところには何か連絡はきてませんか?」


不安になった順は柚介のもとへきていた。

授業の終わったばかりの柚介を廊下で呼び止めたのだ。



柚介は化学教師であるが、香にとっては上司でもある。その関係で柚介が何か事情を知っていればと思ったのだが。

「僕のところには何も連絡はきてませんよ。」

「そうですか…」

順は俯く。

「菅野さんにも連絡がきてないんですか?」

「はい。何度も電話はしてみたんですけど…」

柚介は一応、ケータイをだして確認してみるが、やはり香から着信はない。

そういえば、昨日香は高田のもとに向かったが、化学準備室には戻って来なかった。
柚介は、課題が未完成で香が戻ることが出来なかったのだと考えていた。


しかし、そうでなかったとしたら?


柚介は順のもとを去り、職員室へと早足で向かう。

嫌な予感が離れない。



職員室に入ると、高田道子(たかだみちこ)のところへ一直線に行く。

現代文担当の高田は次の授業の準備をしていた。


「高田先生」

呼びかけると高田は振り向いて、柚介の顔を見た瞬間げんなりとする。

「なんだ。何か用か?」

「昨日の放課後、早坂さんと会いましたよね?」

いつも貼り付けている笑顔がないことを、高田は訝しげにみるが、柚介はそれ程余裕がなくなっていた。


「早坂は昨日来なかったぞ。課題をさぼったのかと思ってたんだが……違うのか?」


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