秘密請負人
□―喪失と焦燥―
4ページ/24ページ
菅野亜矢(すがのあや)は、休み時間、親友――香に電話をかけていた。
しかし何コール鳴らしても、香は電話にでない。
今は三時間目の休み時間だが、何の連絡もなしに学校を休んだ親友を心配して、亜矢は朝から何度も電話をかけていた。
「ねぇ、順くんには香から連絡きてない?」
「いや、きてないよ。」
ちょうど通りかかった順に聞いてみるも、期待した返答は得られない。
「菅野さんに連絡がきてないんなら、俺のところにはこないよ。」
表情が乏しい順が言うと素っ気ないようにも聞こえるが、表面に現れないだけで、順も心配しているのだと亜矢はすでに知っていた。
その上、順が香に好意を抱いていることも亜矢は知っているので、連絡がつかないことを余計にもどかしく感じる。
「い、家で倒れてたりしないよね…」
一人暮らしの香には、具合が悪くなって意識を失ったりなどしたら、気づく者がいない。
そう考えて、亜矢はさらに不安を掻き立てられた。
「放課後までに連絡がつかなかったら、早坂さんの家にいってみよう。…俺も心配だ。」
マナーモードにしたまま、ケータイを見ていない可能性もある。
それならばいい。
何もないのならば。
しかし、亜矢と順は言いようのない嫌な雰囲気を感じていた。
「早坂さんが休み?」
「そうなんです。日高先生のところには何か連絡はきてませんか?」
不安になった順は柚介のもとへきていた。
授業の終わったばかりの柚介を廊下で呼び止めたのだ。
柚介は化学教師であるが、香にとっては上司でもある。その関係で柚介が何か事情を知っていればと思ったのだが。
「僕のところには何も連絡はきてませんよ。」
「そうですか…」
順は俯く。
「菅野さんにも連絡がきてないんですか?」
「はい。何度も電話はしてみたんですけど…」
柚介は一応、ケータイをだして確認してみるが、やはり香から着信はない。
そういえば、昨日香は高田のもとに向かったが、化学準備室には戻って来なかった。
柚介は、課題が未完成で香が戻ることが出来なかったのだと考えていた。
しかし、そうでなかったとしたら?
柚介は順のもとを去り、職員室へと早足で向かう。
嫌な予感が離れない。
職員室に入ると、高田道子(たかだみちこ)のところへ一直線に行く。
現代文担当の高田は次の授業の準備をしていた。
「高田先生」
呼びかけると高田は振り向いて、柚介の顔を見た瞬間げんなりとする。
「なんだ。何か用か?」
「昨日の放課後、早坂さんと会いましたよね?」
いつも貼り付けている笑顔がないことを、高田は訝しげにみるが、柚介はそれ程余裕がなくなっていた。
「早坂は昨日来なかったぞ。課題をさぼったのかと思ってたんだが……違うのか?」
.