秘密請負人

□―喪失と焦燥―
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『―喪失と焦燥―』






吹奏楽部のリピートされる音楽。
放課後の学園は、部活動で少し騒がしい。

そんななか、早坂香(はやさかこう)は、好き好んで寄る者もいない北校舎三階角部屋へ向けて足を進める。


いつものように、我が物顔で化学準備室に居座る教師に呼ばれているからだった。


扉を開ければ美貌の男教師、日高柚介(ひだかゆうすけ)が仕事をやっているのか、パソコンのキーボードを叩いているのが目に映る。


香はとある理由から、柚介の副業を手伝わされることになったのだが、果たして準備室の掃除や本棚の整理は副業の手伝いにはいるのか、それとも香がいいように使われているだけなのか微妙なところである。


「あ、早坂さん、この間の小テストの点数…素敵でしたねv」

「……う」

「素敵すぎて微笑んでしまいましたよ。」

「うそつけっ!微笑みじゃなくて嘲笑でしょう!?」


柚介の嫌味にも毎度飽きることなく突っ込む香はある意味強者だ。


化学教師の裏の顔を知った二学期はあっという間に過ぎ、三学期も半ばに突入していた。


たまに小さな依頼が入るだけで、前回のように法に触れるようなことはさせられていないので、何だかんだ穏やかな日々である。


とは言っても柚介にこき使われるのは変わらないのだが。


「……あ、この曲」

「?……あぁ、吹奏楽部ですか。…これはコンクール用ではないですね。」

先程まで繰り返し演奏されていた曲から、違う曲へと切り替わったのだ。

落ち着いていて、どこか寂しげで、それでいて希望が見えるようなイメージ。

「…卒業式の曲ですね。」
香は少ししんみりしながら呟いた。
「山崎先輩も卒業かぁ。…更さんともラブラブみたいでよかったですよね。」


一学年上の山崎誠とは、柚介の依頼人だった一ノ瀬更がきっかけで知り合ったが、廊下で顔を合わせれば世間話くらいはする仲だったので、香はやはり寂しく感じた。


「早坂さんは三学年ですか。

…まぁ、学年が上がっても、やることはきっちりやってもらうがな。」


「わーっ、猫ちゃんどこいったーっ」

口調が素に戻った柚介に焦って、香は後退りして距離をとる。

後ろに下がった瞬間、積み上げてあった本に足を引っ掛けて、

「うっ、わぁあ!?」


すっころんだ。



すかさず柚介の睨みつける視線がとんでくる。


…ちょっとは心配してくれてもいいんじゃない?


痛むお尻をさすって立ち上がろうとすると、背後にあった扉が開いた。


「柚介先生」

か細い声は、教師を呼んだ。

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